小説 | ナノ

  甘い休息


「はぁーあ」
 CR-5のカポであるこの俺―――ジャンカルロは、執務室で書類に通していた眼を離し一息つこうとしていたところだった。
 ダーリンはいつもこんなのと、朝から晩まで戦ってるのネ。ホントワーカーホリックなんだから。イロイロ労わってあげたくなっちゃう。
ダーリンは疲れてるクセに、仕事した後でもなんでそんな元気有り余ってんだよって聞きてーぐらい俺を朝まで愛しちゃってくれますし?ホント、そろそろ歳相応に枯れてくれねーかなマジで。
「あー…あまいものくいてー…」
「さっすがにずっと書類ガン見とかつっかれたわー」 
 ベルナルドの事考えてたら、無性に甘いモンが食べたくなってきた。
 なんか、ねーかなぁ…。
 がさごそと机の引き出しやらポケットやら探って見たりするが、そこにはガムの一枚もありはしなかった。このスーツ新調したんだった…ガム、ポケットだ。
「ちっ」
 あー脱走でもして、なんか買ってくっかなあ。でも勝手に外出したら、またどやされるしな…めんどくせえなクソ。
 もやもやした気分でふてくされていると、突然コンコンと扉をノックされた。誰だ?もしかして、ベルナルドか?
「誰だー?」
「俺だ、ジャン。入るよ」
 返事の主は今まさに思っていたベルナルドだった。
「あ、ああ…うん。どーぞ」
 まさか当の本人だと思わなかった俺はその声に若干焦る。どもりながらも返事を返すと、扉がすいと開かれてベルナルドが現われた。
「おつかれ、ジャン。頑張ってるかい?」
「ん、マアね。どしたのダーリン、仕事の追加?」
 ベルナルドは俺がいる執務机の前まで歩いてくる。そして、机の上にばさりと白い紙の束―――書類を置いた。
「ハハハ、さすがハニー。お察しの通りだよ」
「げっ。まじかよーせっかく今一息ついてたのにー」
「すまないね」
 不満たらたらで文句を言うと、ベルナルドは俺の頭をぽんぽんと撫でた。
 そんなんじゃ騙されてやんないかんな…。恨めしそうにベルナルドを見つめていると俺の考えてることが分かったのか、少しはにかみながらなにやらポケットを探り始めた。

―――何だ?なんか探してる?
「?」
 見つめる俺の視線の先でベルナルドが取り出したのは細長い、綺麗に包装された箱だった。
「それ、なんなのけ?」
 不思議に思ってそう問うと、ベルナルドはそいつを俺にそっと差し出す。
「これ、ジャンにあげる。開けてみて」
「え、…うん」
 俺に?
 言われるままそいつのリボンを解き、包装紙を破き、現われた黒い箱の蓋をそっと開いた。
「ワオ!」
 箱の中から現われたのは、ずらりと綺麗に並べられた茶色く丸いチョコラート。チョコレイトだった。
 まさにさっきまで俺が求めていた甘いもの!
「超ー旨そうだな!ホントにこれ貰ってもいいのけ?」
「ああ、勿論」
「さんきゅーベルナルド!丁度甘いもん食べたかったんだよな!さすが俺のダーリン!」
「フハハ、お褒めに預かり光栄だよ。」
「それ、ジャンにあげるために買ってきたんだ。その店の、ジャン好きだろ?」
 え、とその言葉に箱の表面を見て見ると、俺がよく外回りの帰りとかによく寄って行くお気に入りの店の名前が書いてあった。
 思わずベルナルドをバッと見ると、優しそうな、嬉しそうな眼で俺を見ていてふ、と笑った。
――――もう、それは反則だろ…!
 ボッと顔が火照る。
―――俺の為にわざわざ俺の好きな店でこいつ買ってきたって?
 しかもこんなタイミング良く渡して?
 くそう、俺のダーリンはホント優秀すぎる。ああもう、なにこんなキザッたらしいことしてんだばか。
「ッ…」
 耐え切れずにベルナルドの視線から逃げると、ベルナルドの手が伸びてくる。その手は俺の持っている箱からひとつチョコを取って食べるのかと思いきや、その摘んだチョコを俺の口元へ持ってきた。
「なっ、なんだよう…」
「ハイ、あーん」
「ハイ!?」
 あ、あーんって…、バカップルみたいなことさらっとすなこのエロオヤジ…!超はずいわ!
 してやるものかと俺が口を開けずにいると、すぐにベルナルドが困った顔になった。
「早くしないと、チョコが溶けて、下にある書類が駄目になってしまうよジャン?」
 そんなことをのたまいながら、楽しそうな笑みを浮かべるベルナルド。だが、実際にもうチョコはベルナルドの手の温度であっという間にとろりとした液体を生みだしつつあった。ちらり、と下に視線をやると、さっき完成したばかりの書類の山。迷ってる暇はなかった。
う、くっそこの…。ええい、ままよ!
「あ、あーん…ぅンッ」
 渋々大人しく口を開けて受け入れると、ベルナルドは満足そうに笑う。……ああもう、甘ぇなァ。
「美味しい?」
「ン…うめー」
「それはよかった」
 眼鏡の奥の目が優しく笑った。
「じゃ、俺にもアーンしてくれよ、ジャン」
「は、え!?」
 突然の要求にさっきまでの甘い気持ちが吹っ飛ぶ。
「なんでだよ!?」
「俺はしたのに、ジャンからはしてくれないのかい?」
 いや、そういう問題じゃないだろ。俺しろなんて言ってねーし!アンタから仕掛けてきたんだろーが、んな、心底残念そうな顔すんな!
「ジャン…お前からのアーンがないと俺は夜まで耐え切れそうにないな」
 ベルナルドは目じりを下げてねだるような口調でそんなことを言う。俺がそれに弱い事知ってるくせに、この確信犯め!
「わかったよ…」
 結局は俺が折れた。どうあがいたって俺はこいつに甘いんだ。
 俺はチョコを一粒とってベルナルドの口元に持っていく。
「ハイ、ダーリン。アーン」
「ン…」
 チョコはすい、とベルナルドの口内に入っていった。
「…じゃあ、も―――」
 あーんした気恥ずかしさから俺がその手を引っ込めようと、言葉を紡いだ瞬間―――
その手をベルナルドの手に絡め取られ、何か言う前にベルナルドの唇が俺のを塞いでいた。
「ッ!?―――ン、んンッ!……んぅ、ふ…!?」
突然のことに油断して薄く開いていた唇から、するりとベルナルドの舌がいとも容易く侵入してくる。
「ちょ、ん……なッにし、ッん……ッ」
「ジャン……」
低く俺の名前を呼ぶベルナルドの美声に、腰ががくがくしてくる。抵抗しようとしても、ベルナルドが俺の頭と腰をがっちり掴んでホールドしているせいでそれも叶わない。ベルナルドの舌が俺の口内を弄ってきて、俺は快感に思わず男のコンプレートをぎゅ、と握り締めた。
 あ、きもちい…。食べたチョコが残っていて舌がとけてしまいそうに甘い。なんだこれ。
「ンぁ、ま……。…はっ、ふ」
 だんだん頭がぼーっとしてくる。もう文句を言う気にもなれず、くったりとベルナルドに身を預けていると舌からなにかが俺の口内に侵入してきた。
「ッふ、ッンン!?」
 う、なんだ、なんか舌から……。ッまさか、さっきのチョコか!?うわ、食って無かったのかよう…!
「ぁ、う……ふ、ッん…く、ふ」
 だが、それはもうすでにベルナルドの舌で半分とけていて、もうすぐ無くなりそうだった。
「んーッ…ん、く……ンッ」
 ベルナルドは容赦無くチョコを溶かすように弄ってくる。あー、チョコがころころして邪魔で、キスに集中できねえ!もう!
俺は思いきって、それを二人分の唾液を共に飲み込んだ。
「ッく、ンッ……は、ぁ…」
 しばらくしてベルナルドは唇を最後にちゅ、と可愛い音を立てて離した。
「っは、飲み込んじゃったの?ジャン」
「…あんた、が…いきなりキスなんてするからだろ…それに邪魔クセー」
「ハハハ、残念。溶け切るまでジャンを味わいたかったのにな」
 ベルナルドが目じりを下げて微笑を浮かべる。十分味あわされたっつーの!
「俺の執務室で、こんな真昼間からなにしてんだこのエロおやじ」
べ、と舌を出すとベルナルドはクスリと笑うとあっさり俺から手を離した。
「ふ、それもそうだね。仕方ないからここは我慢して仕事に励むとするよ。夜になったら今のよりもっとジャンを味わえるしね」
 そう言ってなんかスゲーエロくてにやけた顔でウインクするダーリン。
 ベルナルドのえっち。変態。
「あーあ、今日も可哀想な子羊チャンは狼に食べられてしまうのネ。なんて可哀想なのカシラ」
 そんなこというベルナルドに、わざとおちゃらけていつものお遊び口調で話す。
「嫌なら逃げてもいいんだよ?逃がさないけどね」
 にやりと笑ってそう言っているが、ベルナルドの瞳が微かに揺らいだのを見逃さなかった。ンもう、冗談だって。わかってるクセに、不安性なダーリン。
「ワザと捕まりに行ってるんだって、分かれよ狼さん」
 ウインクを返して笑うと、ベルナルドもふわり、と笑った。
 幸せいっぱいに。
「ジャン…」
「じゃ…終わったら狼さんの家のドアを叩きにいくから、それまで頑張れよな」
 ちゅ、と頬にキスを送ると。
「おまえも。寄り道して迷子にならないようにね」
 ベルナルドも仕返しとばかりに俺の頬にキスを送った。
「じゃあな」
「また、あとで」
 それからベルナルドは執務室を出て行った。
「はあ……」
 何だがなあ。
 誰もいないっていうのに妙気恥ずかしさに視線を落とすとさっきの箱が。と、同時にまだ口内に残ってるチョコの味を感じて俺はぼそりと呟いた。

「―――あー、甘ぇー」





                                   END





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