最期のキスを下さい


「お久しぶりですね」

路地裏。
興味本意でこっそりと薬の取引を覗いていれば背後からそう話し掛けられた。
緊張、警戒。それを怠ったつもりはない。

「…四木さん」

「最近池袋に腕のたつ女の情報屋が現れた、て噂を耳にしましたが」

やはり貴女でしたか、言いながら銃口を向けられ瞬時に発泡。
寸でのとこで避ける。容赦ないなあ。


「いや、うちのシマで薬の取引やってるってんで来てみれば、まさか元部下に会えるなんてね」

また発泡。
やはり軽率すぎたか。


「ノコノコ池袋に現れやがって、殺されてぇってことだよな」

「池袋は羽振りのいい客が多いんですよ」

「殺されたくなきゃ、さっさと帰んな。只単に殺すだけじゃあ済まねぇが」

それはわかる。先程から足の腱を狙ってくる。
裏切りものの末路なんてそんなもんだ。
この業界じゃ面子が全てで、それを汚せば落とし前、いわゆるお仕置きが待ってる。

「本当は四木さんに会いたくて来ちゃった、て言ったらどうする?」

「戯れ言だ」

弾丸が頬を掠める。
四木さんが怒ってる。



「おいちゃんもいるよー」

「なっ赤林!」

背後をとられ、両手を拘束された。

「もう、あんたら気配消すの上手すぎでしょ」

「名前ちゃん、大人しく捕まっとこうね。とりあえずこの場は凌げるからさ」

「うぐっ」

腹部を殴られた。あー気が飛んじゃう。
四木さんが此方に近付いてくるなあ、、

「赤林さん余計な真似はよして下さい」

「いやだってオッサンがフラれて寂しそうにしてるの見りゃ、さすがの俺も同情しちゃうよぉ四木さん」

「はて、誰の話ですかね」

「とぼけちゃって」









「…四木さん?」

目覚めるとまず初めに愛して止まない人の顔があった。

「そうか、天国か」

私のような人間でも天国に行けるのか。
いや、でも、四木さんもいるってことは

「四木さんも死んじゃったの!?」

「…なに言ってやがんだアホ女」

四木さんの閉じていた瞼がゆっくり開いた。
私まだ生きてるの?

「お前にはきっちり落とし前つけてもらう、それまで死なせるか」

「ここどこ」

「俺の部屋だ」

「どうりで四木さんの匂いで満たされてるわけだ」

「…何故裏切った」

それは言えない。なんとしても。


「…何故池袋に、」


ああ、私が逝く先は地獄だ。
愛する人にこんな顔をさせてしまった。


 


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