なんかこわい荒北
荒北君はその見た目と口調に反して実は常識人であり情に熱くちょっと可愛さもありとにかくズルい。
あと付け加えるならデリカシーがなさそうに見えるのに女の子の扱いを心得てる。これに何度ときめいたことか。まあ私はそんな荒北君のことが好きなのです。
「俺これ運んどくからコッチやって」
文化祭準備で教室内も廊下もバタバタと忙しない。
そんな中荒北君はかったるそうにしながらもちゃんと作業してるし、協力的だ。
「よし、できた!」
絵の具の塗り終わった看板を友人と眺める。うん、なかなかの出来。
あとは教室の入口に貼るだけだ。よっこいせと背伸びして看板を持ち上げていると後ろからそれを取られた。
「わ!」
「苗字ちゃん、ちっせーからやってやんよ」
荒北君がなんと片手で貼り付けてくれた。しかしこの腰に回るもう片方の手は何でしょうか。
「あ、ありがとう」
「ン」
どぎまぎしていると荒北君は何もなかったかのように離れて行ってしまった。なんだ今の。心臓に悪い。
「ヒュウ、靖友やるなあ」
「…新開君。そっちのクラスは準備終わったの?」
「おめさん、真っ赤だぜ」
言われなくてもわかってるわい。この人いつからいたんだ。
「さぼり?」
「休憩だよ」
そういってポケットからパワーバーを出して食べはじめた新開君。どうやらさぼってるみたいだ。
「苗字さんのクラスはアニマル喫茶か」
「うん、コスチュームがすごく可愛いの」
「耳とかつける感じ?」
「尻尾もつけるよ。荒北君がね猫耳つけるんだ」
「え、それ需要あんの」
結構ひどいこと言うのね。
「嫌々だけど可愛いよ」
「靖友は嫌々だけどやってくれるところが可愛いんだよな」
「そう!」
ひとしきり二人でニヤニヤして新開君にいい加減自分のクラスに戻るよう言うと素直に帰っていった。
「うひゃ!」
ぼーっと新開君の後ろ姿を見ていれば突然冷たいもの
が頬にあたった。
「荒北君、びっくりしたよ!」
缶ジュースを持った荒北君がいたずらっ子の笑いをしてる。
「新開じゃん、サボりか?」
「そうみたい」
「苗字ちゃん今さらだけど、髪結んでんの珍しーネ」
「まあ色々作業すんのに邪魔だったから」
「ふーん」
プシュッと気持ちのいい音を立ててベプシの缶を開けてゴクゴク飲み始めた荒北君。
動く喉に釘付けになってしまった。
「てかさ、新開と仲良かったっけ?」
「わりと仲良し」
先程の会話を思い出してニヤけてしまう。
「…ナニその反応ォ」
「え、」
なんだかいつもより低い声に驚いた。
何故かしまったと思い、焦って先程新開君と荒北君の話をしていたのを思い出したことをしどろもどろに伝えた。
「わかった、わかったァ、嫌な言い方してごめんネ」
落ち着かせるように頭を撫でられる。
「怒らせちゃったかと思った…」
「あーもう、涙目じゃん、ホントごめん」
いつも通りの優しい荒北君にホッとしたらじわりと涙が出てしまったようだ。
「怒ってない?」
「ウン」
「なんか取り乱してごめん」
セーターの袖で目元を拭っていると調度教室から出て来たクラスメイト達にそれを目撃された。
「荒北なに泣かせてんのよ!!!」
「うっせーよブス」
「はああ!?」
「ったく面倒くせえ、行くぞ苗字ちゃん」
「え?」
気付けば荒北君に手を引かれ廊下を走っていた。
後日愛の逃避行と散々弄られた。
「え、おめさんたちまだ付き合ってなかったのか」