食べたい(物理)
「ウタって呼んでね」
ここ数日変な人に付きまとわれてる。
見た目はピアスだらけで刺青入っててすごく怖いけど穏やかにゆっくり喋る人。
たまたまライブハウスで話したのがきっかけでそれから行く先々で現れて少し会話をしてすぐいなくなる。
変だ。
特に夜道で現れて、こっちの道の方が安全だよって道案内してくれる。
夜道でよく出くわすなんて不気味なはずなのに何故か本当に安全な気がして着いていく私も変だ。
大学でレポートの提出が間に合いそうにないなんて話までしてしまうくらいには親しくなった。ほんと変。
だってあの喋り方で「だいがく、がんばってね」て言われたら凄く嬉しくなってペラペラ喋っちゃうんだもん。
今夜は珍しく会わないなと思っていたら知らないお兄さんに突然殴られた。そういえばここら辺って治安悪かった。ウタさんのせいで忘れてたのだ。
金目のものでも盗まれるのか、それともレイプされてしまうのか。一瞬で嫌な予想が頭の中をグルグル回る。
予想は外れた。まさか喰種に食べられるなんて。
大きく開けた口から涎が落ちてくる。
ああ痛いんだろうな。嫌だな。
「もう、だから危ないっていつも言ってるでしょ」
ウタさんだ。
私を食べようとしてた喰種はウタさんの足下でバラバラ死体になっていた。
「だって、ウタさんに会いたくて、」
そう言うとウタさんの腹の虫が盛大に鳴いた。
「…あんまり可愛いこと言っちゃ、駄目だよ」