ピアノ教師ヒソカ
鍵盤の上を歌うように走る指先。
そこから生まれる音色は多彩だ。
無駄な音なんて一音もなく、音ひとつひとつに意味がある。
思わず溜め息が溢れる。
「おやおや。うっとりしてないでちゃんとペダリング、見てたかい?」
そういえばそんな話をしていた。
「…すみません」
「まあ、ペダルの場所は指示しないけど今みたいに濁らないようにしてネ」
先生は自分の考えてを押し付けることはせず私の感性を引き出す天才だ。自分で試行錯誤して表現することが如何に音楽で大事かを教えてくれる。
「もう一回頭から」
「はい」
先生のピアノを聴いたあとでは自分の音の貧しさが嫌でもわかってしまうが私だって出したい音がある。外見も経験も何もかも先生には追い付けないけど音楽の中では対等でいたい。
夢中になって弾いていると隣で先生がクスリと笑った気がした。
「ついこの前まで青い果実だったのに。だんだん熟れてきたね」
「…ありがとうございます」
先生特有の言い回しはどこか変態的だけどきっと褒めてくれているのだろう。
「ね、即興で連弾してみない?君に合わせるから好きに弾いてみなよ」
思ってもいなかった誘いに生唾を飲み込んだ。
これはやりたい。勇気を振り絞る。
「やってみます」
後でメチャクチャになるだろうけど好きな調と拍子を考えて弾き始める。
先生は数小節聴くといきなりとんでもない音で入ってきた。
そしてあっという間に乗っ取られた。
合わせるって言ったのに!
隣を見るとひどく楽しそうな、挑発的な笑顔が。
負けてたまるか。
「っはあぁっ」
「フフ…燃えたネ」
結局先生の掌で踊らされた。
そして間違いなく寿命が縮んだ。
「もう一生やりたくないです」
「つれないなあ」
「だって先生酷いです」
「可愛いからついね。苛めたくなったんだヨ」
私が必死になってしがみついてる様が可愛いと言っているのならばそれをあえて言葉にする先生は本当に酷い人だ。
「そんな顔してないで早くもっと熟れてネ。またやろう」
米神にキスを落とされ本日のレッスンは終了。