心臓を鷲掴み

あー、痛い


ベンチの隅で膝を抱えて座っているとランニングを終えた部員達が水分補給に戻ってきた。

「おい、マネジャー顔色悪いぞ」

「ああいや大丈夫だから、気にしないで」

花井君は私を含めみんなをよく見ている。こんなこと言ったらキャプテンの立場だからって言われそうだけど、マネジャーの私でも気に掛けてもらえるのが嬉しい。



「うわ!お前まじで顔色やべーじゃん!体調悪いのか?」

田島君の大声にいつもなら元気だなーと思うところだが今回ばかりは頭が痛くなった。

「えーと、まあしばらくすれば治ると思うから大丈夫だよ」

「何、腹でもいてーの?」

「うーん…。とにかく大丈夫だから放っといていいよ。ほら皆行っちゃったし田島君も行きなよ」

「…ふーん」

何だか不服そうに私を見ると田島君は皆の後について行った。

いや、だってさすがに男の子に生理痛だとは言いづらいです。それにしても今日はいつもより辛い。

篠岡ちゃんは私を気遣ってさっきから一人でテキパキと動いてるのに。私も仕事しなくては!






朝練は何とか平気だったのにお昼前の授業中に急に腹痛が酷くなった。

授業を抜けて今は保健室のベッドの中だ。
体が重くてお腹と腰がズキズキしてる中だんだんと意識が薄れていく。





ん、なんか右手が暖かい…

「あ、起きた!」

「…たじまくん」

目を開けるとニシシと笑う田島君がいた。布団から出た私の右手をふにふにと遊ぶように握っている。

「もう放課後だぞ」

「え、え?うそ」

保健室の時計を見るともう部活が始まる時間だった。行かなくちゃ!

「なあ、もしかして生理ってやつ?」

ベッドから起き上がろうとしたところで田島君の一言に思考が一時停止。

「女子が腹痛いのって基本的に生理だからって篠岡が言ってたぜ!」

ちょっと篠岡ちゃん!何でそんなこと田島君に教えちゃうかなあ!ほら彼は悪気なしに生理生理って笑顔で言っちゃう子なのよ!


「そ、そそうだけど!田島君!男の子が恥ずかし気もなく生理なんて言っちゃ駄目だよ…!」

「え、そうなの?」

「うん」

「じゃあ気をつける!ゲンミツに!」

またニカッと笑う田島君。ちょっと可愛い。


「でも女子はすげえよなー」

「何が?」

「だって生理とか股から血が出てんのにちゃんと学校来てさ、苗字はマネジャーの仕事もちゃんとやろうとすんじゃん」

田島君、全然ゲンミツじゃなかったけどその後の言葉に驚いた。

「へへっありがとな!でも無理すんなよ」

ぎゅっ
さっきから握られていた手を更に強く握られる。同時に心臓まで握られた気がして胸が苦しくなった。



あれ、田島君ってこんなにかっこよかった?



心臓を鷲掴み



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