冬の花火
恋する女の子って可愛いと思う。
最近になって急に友達の惚気話や悩み事ばかりをよく聞かされている気がする。
寒くなるにつれ周りにカップルが増えていって、暖かくなってくると別れていくなんてよくある話だ。
生き物にとって冬を乗り越えるのはすごく辛くて運が悪けりゃ死んでしまうことだってある。そういった潜在意識が人間にもまだあるのかもしれない。
そんな冬に一人というのはやはり心細く感じるのだ。
「丸井ぬくいわ〜」
「わっ苗字、やめろって」
そして私もその一人である。夏は暑さで苛々とするが冬の寒さには寂しくなるものがある。別に恋をしたいとか彼氏が欲しいとかそういうことじゃないけど。
部活終了後、部室でマネージャー日誌を書いていたのだがとにかく寒い。手がかじかんでうまく字が書けない。
部室には唯一ひとつだけストーブがありいつも争奪戦になっている。マネージャーの私が部員より暖まるなんてことはおこがましすぎるので、先程までストーブの前で暖をとっていた丸井の制服の中に手を突っ込んでいるのだがこれが中々暖かい。
「丸井のお腹めっちゃ柔らかい」
「馬鹿!くすぐったいだろ。肉つまむなよ」
シャツの上から丸井の腹をつまんでみたらとても触り心地がいい。一応筋肉はついているのだがちょっとふにふにしてる。私が触るとくすぐったいらしくひぃひぃ言って笑ってる丸井。やだちょっと楽しくなってきた。
「ぶはっまじでやめろよ、笑いすぎて呼吸困難…っ」
「ぬくいし触り心地いいし、丸井をホッカイロにして持ち歩きたいわー」
「…」
丸井は突然静かになってしまった。
「丸井どした?」
「…」
なんだ?そう思って手を緩めてしまったのが駄目だった。
「隙あり!」
「うわあっ」
形勢逆転である。
「へっへっへ!この俺様で遊びやがった仕返しだぜ!」
お前はどこぞの悪者だ。変な笑い方しやがって。
今度は丸井に腹をくすぐられて私がひぃひぃと笑い転げていると急に蹴られた。
「ちょっと先輩らまじ邪魔っスから」
ジャージから着替え制服姿の赤也が荷物を持って帰ろうとしていた。なんだなんだ後輩赤也君は反抗期なのか。蹴られた背中が痛いわ。
「赤也、香水臭いよ」
「これから彼女に会うんスよ」
それからの行動は素晴らしく迅速だった。私は赤也の足首を掴み、丸井は標的を私から赤也に変えてくすぐりの刑に処した。
「爆発しやがれこのワカメ野郎がっ」
「あんたらっまじさいてー!!」
ひぃひぃと笑いながらも悪態をつく涙目な後輩に「しょうがない。許してやろう」と解放してあげた。
「ばーか!先輩らのばーか!お前らこそ爆発しろ!」
赤也は捨て台詞を吐き、制服が乱れたまま部室から飛び出していった。
丸井と顔を見合わせればお互い息は上がって髪や制服がグシャグシャになっていた。
「ぷっ」
吹き出して笑っていると部室の鍵を持った幸村がやってきてまた爆発しろと言われた。部室の鍵をしめるため私達は外へ追い出された。
追い出されて冷たい外気に包まれたが、さほど寒くは感じなかった。
冬の花火