焦がれる生き物たち
※大学設定
大学の広いキャンパス内にある大きな庭。ここは私のお気に入りの場所だ。
「名前ちゃん」
ベンチに座って本を読んでいると授業が終わったのか本好先輩がやってきた。最近の私は学内で先輩を見かけるだけで顔が綻んでしまうほどに重症だ。
「今日は藤いないんだね」
「藤先輩は別に毎日ここに来るわけじゃないんですよ。きっと今日は違うところで寝てます」
藤先輩はよく昼寝をしにこの庭へやってくる。藤先輩より来る頻度の少ない本好先輩を含め3人が揃うと芝生の上で川の字になってひなたぼっこをしたりする。先輩達と過ごすそんな時間が私にはとっても幸せだ。
本好先輩は私の隣に腰を下ろす。それだけで煩くなる私の心臓に心の中で呆れて笑った。そんな私をよそに先輩は両手を上げて上半身だけ伸びをした。
「お疲れ様です」
「んー昨日課題やってて気付いたら朝方でさあ。大して寝てないんだ」
ふぁ〜と無防備に欠伸をする本好先輩は中々レアだ。
「課題に没頭してたとは言え、先輩が夜更かしなんて珍しいですね」
「自分でも驚いてるよ。睡眠時間って大切だし自己管理はちゃんと出来てるつもりだったんだけど。好きな専門の課題だったから時間も忘れてやっちゃった」
あ、今の笑った顔好きだ。なんて思いながら先輩の話を聞く。そっかあ先輩にも好きなことがあってそれにのめり込むんだ。当たり前の事だけど普段あまり自分を語らない先輩のことが少しだけ知れて嬉しい。
「ふぁ〜眠いや。今日は藤がいないし名前ちゃんの膝枕は僕が独占しようかな」
先輩の突然な発言に固まってしまった。なんですと。
「…えっだ駄目ですよ!」
「何で?藤にはよくしてるのに僕は駄目なの?」
「そういうわけじゃ、ないけどっ」
いや、藤先輩に何度かしたことはあるけどあれは先輩が勝手に寝っころがってきて、何をしてるんだと言っても先輩はおやすみ3秒ですでに夢の国へ行ってしまってるから放置してるだけであって、えーと
「ねぇ、いいでしょ?」
わああああそんなに顔を近付けられるともうどうしたらいいのかわらならくなってしまいますっ
「…っもう何でもいいですから好きにして下さい!」
「あはは、何それ面白い。じゃ遠慮なく」
すると先輩はゴロンと横になった。太股の上にはこちらを見上げ楽しそうに笑っている先輩の顔があり、私はその顔を見ていたいけど私の真っ赤な顔を見られたくなかったので両手で顔を覆った。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」
先輩がクスクスと笑っているのが聞こえる。好きな人に膝枕を求められて恥ずかしくないわけがないのだ。
しばらくすると笑い声ではなく寝息が聞こえ、見てみると瞼を閉じた先輩の顔がそこにあった。先輩の顔は本当に綺麗だと思う。色白で整ったそれをまじまじと見る。微かに揺れる睫毛や淡い色の形の良い唇にきゅんとしてしまう。そして綺麗なのは顔だけではなく先輩の黒髪もそうだ。そよ風に揺れる髪に恐る恐る触れると指の間をサラサラと通っていった。
「なんでこんなに綺麗なんだろ」
根本的に人間としての造りが違うのかもしれないと本気で考えてしまう。
目が覚めると名前ちゃんが西日を浴びてうとうとしていた。
「かわいいなぁ」
名前ちゃんは純粋で真っ直ぐで優しくて愛らしい。こんな綺麗な生き物を僕は他に知らない。
その存在を確認するように頬に手を伸ばして何度か撫でた。彼女に触れているとこの生き物に僕なんかが触れてはいけないという背徳感が沸き上がる。その反面、彼女の温もりは僕を心底落ち着かせるものでもある。
ずっとこうしていたい。時間の許す限り。
「ん…」
名前ちゃんの瞼がゆっくりと開いた。トロンとした目と数秒間見つめ合っていると頭が覚醒してしまったのか一瞬にしてまた真っ赤になってしまった。
「せっ先輩起きてたんですね」
ほんとにこの生き物を見ていると独り占めしたくてたまらなくなる。自分の腕の中に納めてしまいたい。
頬に添えていた片手を名前ちゃんの首の後ろへ回すとそのままぐいっと寄せた。
「あー!本好そこは俺の特等席だぞ」
「ったく。藤、名前ちゃんの膝は今日から僕専用だから」
「はあ?ていうか名前フリーズしてるし。大丈夫か?」
先輩とキキキキ、キスしちゃった…
焦がれる生き物たち