犬くさい
「お、久しぶりだな」
頭巾を目深に被ったこの人は町で薬屋をしているマキシマさん。
怪我も治ったし、薬草も溜まったので今日は町まで売りにやって来た。
「お前んとこの山で採れる草はなかなか手に入らねえし、いつもの間隔で売りに来ねえから困ってたんだよ」
「すみません、山で転んで2日ばかり」
「そりゃ、無事でなにより」
村の人達とは会話のテンポが違う、と思う。商いがある街では時間が進むのがとても早いのだろうか。もう数年通っているけど慣れないものだなあ。
マキシマさんは手際良く薬草の重さを量っていつも通りのお代をくれた。
「ありがとうございます」
「転ばれるとうちも困るから気をつけろよな」
じゃあ、と空になった籠を背負うと、「ちょっと待て」と呼び止められた。
「あー、お前んとこの村の福富家の一人息子が死んだって風の噂で聞いたんだが、本当か?」
喉の奥がきゅっとした。
「なぜ、それを」
「古い知り合いでよ」
「急なことでした。倒れて数日で」
どこまで話すべきか悩むけどそれ以前に福富家に村の外で知り合いがいたことに驚きだ。しかも私とも関わりのある方。
「死ぬ少し前に嫁をとったって聞いたんだが、もしかしてお前か」
「…」
言う義理はあるのだろうか、なんと言うべきか、でもこの場合沈黙は肯定になってしまうか。
「やっぱりな、どうりで犬くせぇわけだ」
「…は?」
フリーズしている間に何も聞けず店を追い出されてしまった。
聞きに戻ったからと言って何をどう聞けばいいのかも今の私にはわからない。とりあえず帰るしか他ない。