山伏のこども
そういえば拾った薬草も背負っていた籠もどうしたんだろう。まだ山に転がっているのだろうか。あれがないと生活に困ってしまう。
体の痛みが良くなったら山に探しにいこう。
見つからなかったら新しく編まなければならない。
溜め息をつき、とぼとぼ歩けば家に着いた。
前には野菜が置いてあった。
「キヨさんだ」
すぐにお礼を言いに行こう。
きっと顔を見せなくて心配してる。
キヨさんの家に着くと珍しく賑やかな声が聞こえた。
中を覗けば見馴れない子供とキヨさんが楽しそうに話している。
「こんにちは」
「おや」
「お野菜ありがとうございます」
「昨日一日見かけなかったけど何かあったかい」
山から転げ落ちてその後の不思議な体験は言わず先程やっと家に帰って来れたんだ、と伝えると目を見開いたキヨさん。
「薬草届けられなくてごめんなさい」
「そんなの、それより無事でよかった、最近狼が出るって言っただろう」
「大丈夫でした。あの、その子は?」
視線を向ければにこりと笑う蒼色の髪の男の子。
こんなに小さいのに山伏の格好をしてる。
あれ、男の子の後ろにあるのって私の籠じゃ、
「山で籠を拾ったらしくてね、わざわざ村に降りて持ち主を探してるんだと」
「お姉さんのだよね、山神様のお使いで届けに」
とりあえず急いで口を塞いだ。
キヨさん、というか村の人にあの不思議な体験はあまり知られたくなかった。
「私のです、無くしたかと思ってた、キヨさんまた明日」
男の子の口を塞いだまま一緒にキヨさんのおうちを飛び出した。