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「おい荒北!運んでやれ!」
「なんで俺がンなことしなきゃなんねーんだよ」
「とても良い子なのだ、可哀想ではないか」
「知るか」
「…貴様、山から追い出すぞ」
「チッ」
なんか聞こえるなあ、
でも体中痛くて痛くてもう意識が保てない。
死んだ夫が私の幸福を祈っている夢を見た。
「ここどこ」
見慣れたボロボロの天井ではなく、綺麗な木目が見える。
「…痛い」
体中がじんじんする。
起き上がれない。
擦り傷には薬草を塗った跡があり、誰かが手当てしてくれたようだ。
「起きたならさっさと帰れよ」
驚いた。人がいた。
「あの、ありがとうございます」
フンとそっぽを向いて縁側に寝転がってしまった。
そういえば狼にもこんな態度をとられてしまったなあ。
のそのそと起き上がるがやはりあちこち痛い。
「あ」
枕が濡れている。寝ながら泣いていたらしい。
汚してしまった。
どうせまともなお礼もできないのでとりあえず布団を畳んで言われた通り帰ろう。
「お世話になりました」
縁側から外に出るとここが山の中だとわかった。
しかし歩いたことのない山道だ。
「こっちだ」
「!!」
何か耳元で囁かれた。
振り返れば縁側に寝転がる先程の人。
あの人の声ではなさそう。あ、おおきい欠伸をしてる。
「ほら行くぞ」
周りには誰も居ないのにまた聴こえた。
すると急に強い風がふいて木が揺れる。
風に背中を押されるようにして足が進んで行く。
暫くそうして見覚えのない山道を進むと村が見えてきた。
しかし
「南の入り口…」
ここから出入りしてるところを村の誰かに見られたらどうしよう。
「うわっ」
風が最後の一押しと言わんばかりにぶわっとふいて南の入り口の真っ白な鳥居を潜ってしまった。
やってしまった。
幸いにも人気はなく、胸を撫で下ろす。
「いてて」
そうだ、全身痛かったのだ。
不思議な出来事について考えるのは後にしよう。