応える人はいない


実家。
確かに実家だ。
しかし既に両親を亡くしている私にはそう呼ぶには親しみが足りない、ただの家だ。

またここで独り、

「名前ちゃん、戻ったんだね」

「キヨさん」

いけない、小さな家の前で立ちつくしていた。
両親が死んでから何かとよくしてくれていたおばあさん。結婚が決まったときには泣いて喜んでくれた。

「残念だったね」

「いえ、せっかく送り出してくれたのに、」

「いいんだよ、それより昨日ここいらで狼が出たんだ」

「狼なんて珍しい」

「危ないから夜は出歩くんじゃないよ」

「ありがとう」

明日は薬草を採りに行こう。
キヨさんにも分けて町に売りに行こう。
いつもの暮らしに戻るだけだ。


持ち帰った必要最低限の着物や布団を箪笥に戻し、少し埃を被った釜を拭く。

別に愛があったとかそういうんじゃないけど誰かと寝床を共にするのはとても暖かかった。
こんな身寄りのない私を妻にした夫は変わり者だと散々言われていたし、私もそう思う。
お見合いに飽き飽きしていたそうだ。彼は私の貧しさと欲のなさを気に入ったと言っていた。

ひとり分の食事を済ませひとり分の布団を敷く。
嫌だなあ、どうしてか涙が止まらない。

そもそも涙なんて久しぶりに流した。
拭いても拭いても止まらないので布団が濡れるのも構わず眠りに就いた。

山から遠吠えが聞こえた。





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