在り方とは

「あれは、一体なんですか、、」



御山の敷地に飛び込んだ後、息を切らした隼人さんは立ってるのも大変みたいで大の字になってねっころがった。
胸が大きく上下に動き続けてる。


「っはぁ、久しぶりに走るとクるな〜」

山神様はあれ以来何も言わなくなってしまった。
あとは私の判断で動けということなのか。
でも荒北さんに黙って隼人さんに付いていったのは間違いだったと思う。
この大きな渦を止めるには私がちゃんと理解して関わってる全員と向き合わなきゃならない、気がする。
寿一さんがしたかったことってそういう事なんじゃないかな。

そのためにはまず寿一さんを失った孤独な狼の心を知りたい。




自分を落ち着けるために考えてはみるものの
しかし先ほどのゾッとした感覚がまだ体に残っていて冷や汗が止まらない。
あんな恐ろしい生き物がいるのか。

「名前、すまなかったな」

「いえ、隼人さんは何も、というかここまでありがとうございます」

「いや荒北が来なければどうなってたか」


荒北さんは無事だろうか。

「あいつは元々獣だったけど共食い人間食いを繰り返して化け物になっちまったんだ。俺なんかが敵う生き物じゃなくなったけど何故か人間の信仰にはめっきり弱い」

なるほど。それで御山は安全で荒北さんが大丈夫なのもわかった。

「でも隼人さんあれは私にも手が出せないって」

「だっておめさん荒北の加護があるだろ、山神の加護も少しあるみたいだし、そりゃ邪なもんは手が出せねーよ」

「え」

そうなの?加護って、初耳なんだけど。
当たり前だろ、というような顔で言ってくる隼人さん。


「しかも本尊からあんまり離れられない荒北が御山の外に来れたのはおめさんとの繋がりが余程強いってことだろ」

「私別に荒北さんを信仰してるわけじゃないのに、」

「特別ってやつだな」

バキューン
なんですかそのポーズ。
特別ってなんだろう。私も荒北さんという存在は今までにない、寿一さんとも違う特別ではあるけど。

「信仰じゃなくても、その存在を認識して必要としてるなら荒北の存在意義は充分にあるだろう」

そういうものなのか。気持ち次第で在り方も変わるなんて。



ガサ、
林が揺れると人間の姿の荒北さんが現れた。

「荒北さん、血がっ」

「俺の血じゃねーから。あいつ首を噛みちぎったのにすぐ蘇生しやがった」

「恐ろしいな、また何か食べたんだろうな」

荒北さんは口回りにベットリとついている血を手の甲で拭っている。

「で、新開テメーどこに行くつもりだったァ?」

「黙秘権ってやつはあるのかい」

「ンなもんあると思うか」

「あると願いたいね」

大きく舌打ちが聞こえた。
ピリピリとした雰囲気にまた別の冷や汗が出る。

「まあイイ、粗方予想は付く」

「へえ、無理やりにでも吐かされると思ったよ」

「福チャンが死んだんだ、福富家もこのまま跡継ぎが産まれないなら俺はその内消える。そう思ったら俺が必死になる意味もねーと思ったダケ」

「お前、本当に消えると思ってんのか」

「ア?そうだろうがよ」

「馬鹿だな、おめさん」

「なんだテメー」

心配をよそに、ピリピリとした雰囲気はなくなった。
けど

「荒北さん、消えちゃうの?」

「信仰がないなら消える、俺はそういうモンだ」

そんな。
何とかしようと息巻いていたけど急に気持ちが沈んでしまった。

「おめさんは消えないと思うぜ、名前も落ち込まなくていい」

「なんで、そんなこと言える」

「内緒」

バキューン。
隼人さんがふざけてるから荒北さんが拳骨した。








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