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こんなにも恐ろしい生き物がいるのか。
威圧なのか食べる気なのか歯を打ち合わせて音を立てている。
「名前、そいつはお前には手出しできない。が、俺を食う気でいる」
そんな。このまま逃げ切れるのだろうか。
「御山まで逃げ切れれば俺らの勝ちだ」
隼人さんの脚力は異常で本当に兎のように大きな一歩で周りの景色なんて見えない速さだ。
しかし追いかけてくる不気味な顔を一向に振り切れない。
「隼人さんっ私を置いていって」
そしたら隼人さんは食べられずにもっと速く逃げれるし、私には手出し出来ないって言ってたし。
「おめさん、そんなことしたら俺が荒北に殺されちまうよ!」
まだ軽口を言う余裕があるみたいで少しホッとしたのも束の間、後ろから唸り声が聞こえた。
「新開ぃ、テメェはあとでしっかりぶっ殺す」
「っ荒北さん!」
何処から現れたのか狼姿の荒北さんが不気味に伸びるその首に噛みついている。
「荒北、なんで御山の外に!?」
「ウッセ、お前はとにかく名前連れて山に戻れ」
首はそれ以上伸びずに奇声を発して頭だけジタバタ動いている。
隼人さんは更にスピードを上げて走り出した。
御山はもうすぐそこだ。
でも荒北さんが!
「名前!お前も後で説教してやるから覚悟しとけ」
ひぃ、初めて怒鳴られた。いつも何だかんだ優しい荒北さんを怒らせてしまった。
「荒北は大丈夫だから御山で待とう」
「…はい」