犬神憑き
今夜もまた山神様の屋敷で眠る。
もう暫く自分の家に帰っていない。
キヨさんはきっと心配してる。
「さっさと寝ろ」
縁側で膝を抱えていたら荒北さんが来た。
なんだかこんなに人が身近にいる生活は生まれて初めてだ。人ではないけど。
ホラ、と手を差し出してくれるので素直に体を任せて立ち上がる。
人の体温が嬉しい。
「あの、
正直なところもう何が何だかわからなくて」
「…今は考えず寝ちまえ」
「でも私には何かやるべき事があって、ここにいるんですよね」
荒北さん、山神様、そして寿一さんは私に何を求めているんでしょうか。
荒北さんは何か迷っているのか黙ってしまった。
月夜に鋭い瞳が揺れてる。
山神様も何も言わない。
「名前ちゃーん!」
突然背中に衝撃。
荒北さんの胸板に突っ込んでしまった。
「久しぶり〜」
振り向くとある日の可愛い天狗がいた。