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正直亡くなった夫には感謝という気持ちしかない。
いきなり始まりいきなり終わった数日間だけの夫婦生活。
恋愛感情とかそういうことではない、ただ天涯孤独の自分を身請けてくれる方がいた、それだけで何か救われた。その感謝。
「寿一さん」
寿一さんが亡くなってから奇怪なことばかりです。
「名前よ、身体の調子はどうだ?」
また聞こえる。
「たまに打ったところが痛みますが、すっかり良いです。お陰様です」
「ほんとになー」
縁側から急に現れた狼さん、また人の姿をしてる。
黒い着物をゆるりと着て柱に寄りかかる姿は素敵だと思った。
「なんだ荒北、案外満更でもなく看病に勤しんでいたではないか」
「誰がするか」
「いえ、して頂きました。ありがとうございます、あらきたさん?」
けっ、と罰が悪そうに山へ消えてしまった。
ぶっきらぼうなお方。
「で、あなたは山神様でいらっしゃいますか」
「いかにも」
「聞きたいことが山ほどあるんです」
「だろうな」
寿一さんが亡くなってから突然山に現れた狼、先日のマキシマさんの意味深な言葉からなんとなく狼の荒北さんと福富家、というか寿一さんには何らかの関係があるのだと思う。
「あながち間違っていないぞ。すごいな、さすが福が選んだ女だ」
「あなたも寿一さんと関わりがあるのですね」
「まあ、追々な」
また話してくれないやつだ。
「とこで名前、荒北に見惚れていたが福という夫がありながら無節操だな」
「寿一さんとはそういった関係では全くなかったので、それとこれとは別です」
「そんなこと言ったら拗ねるぞきっと」
確かに、わかっていても少し拗ねていそうだ。
拗ねた顔を想像して笑ってしまった。
いやしかし、寿一さん、あなた一体何者なの。