濡れたくちもと
誰かの背中におぶさってる。
その背中が愛しかった。
「おめぇ、いい加減起きろ」
いたい、ペシリと頭を叩かれた。
ゆっくりと瞼を開けると不機嫌そうな顔がある。
「…だれ」
掠れた声が出た。というかすごく喉が乾いた。
「みず、」
不機嫌そうな顔が更に歪む。面倒くさそうに湯飲みをとると自分で飲んでしまった。
水くれないのか、と驚いていると急に顔が近づいてきて口元に濡れた感触。
「んぅ」
水だ。舌を伝って入ってくる。
少し口元から溢れて枕を濡らす。
とんでもないことをされてるのはわかってるけどとにかく喉が乾いてそんなことどうでもよかった。そして何より心地よかった。
柔らかい唇は少しして離れていく。きっと一瞬の出来事だけどとても長く感じた。
「前と違って頭打ってる。しばらくここで大人しくしとけ」
そこでやっと気付いた。
数日ぶりのあの綺麗な木目の屋敷だ。
また来てしまった。
「あの、もしかして、、狼ですか」
「どうしてそう思った」
「…なんとなくですけど雰囲気がそうかなって」
「ふーん」
あ、答えてくれないやつだ。
そして直感で私はこの人が好きだ、と思った。
「あ、えーと、また水飲みたいです」
狼さんは一瞬驚いた顔をしたけど、また同じようにしてくれた。でも今度は心臓がうるさくて、狼さんにも聞こえたんじゃないか、てくらい波打ってしまった。
こんな感情は今まで持ったことがなかった。
濡れたくちもとが扇情的だ。