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歩いて15分くらいで荒北先生の部屋があるマンションに着いた。
途中で何度か逃亡を試みたけど何故か私の手を離さない先生のせいで失敗に終わった。
先生は部屋の扉を開けるとその場にヘタレこんでしまった。
「気持ちワリィ…」
顔色真っ青だ。
「お邪魔します。冷蔵庫に水とかありますか?」
頷くのを確認して勝手に上がり込み冷蔵庫からミネラルウォーターを拝借。
「どうぞ」
それを躊躇なく受け取りコギュコギュ飲む先生の喉仏を見ていると突然動きを止めてこちらを見てくる。
「何か?」
「なんでここにオメェがいんの?」
「…どうやら酔いがさめたみたいですね。」
「同じ病棟のナースだよナァ?」
酔いがさめると更に面倒で溜め息が出た。
外科医の先生とは検診や外来で何かと関わりがあるが荒北先生とはなぜが接点が全くない。そんな病棟内ですれ違う程度のナースが家にいるなんてわけがわからないだろう。
説明とかは明日にでも外科の先生に聞いてもらうよう言い、先生の部屋からそそくさと出る。
後ろから呼び止める声が聞こえたけどそれより終電がやばいのだ。
夜道を歩きながら終電を調べると、ああもう終わっているじゃないか…
なんという絶望。
タクシーなんかで帰ったらいくら飛ぶのだろう。
三つ隣の駅だから歩けなくはない。
狭い歩道で肩を落とし立ち尽くしていると後ろから自転車が来た。道を譲ろうと端に寄ると自転車は通り過ぎることなく目の前で止まった。
うん?
「もしかして終電終わったか?うち来いよ名字ちゃん?」
「私のこと知ってたんだ…」
「そりゃな」
ふと、上がった口角が魅力的だななんて思った。