煩い東堂先生


院内の従業員食堂で蕎麦をすすっているとドカッと隣の机にカツ丼が乗ったトレーが置かれた。

「名字!」

「何ですか、東堂先生。びっくりするじゃないですか」

勝手に隣の席に腰掛ける東堂先生。
なんか久しぶりだなこの人。

それにしても

「お疲れですね」

「まあな。最近荒北のやつとオペ組むことが多いのだが何せ無茶ぶりが凄くてな」

「無茶ぶりに応えられるから組まされるんでしょう」

「当たり前だな!」

顔に疲労が出つつも賑やかだ。
最早尊敬してしまう。

「二人がオペ組むとすごい速さで終わるってよく聞きますよ」

「速さだけではないぞ。荒北の判断力と俺の理解があれば正確に丁寧に終わる」

「すごいなー」

「そうだろう!!」

この人、悪い人じゃないけど煩いなほんと。

「じゃ、私行くんで」

「待て!!」

「ええー、もう煩い東堂先生、相手すんの面倒」

「お前たまに本音が出るな」

一度引いた椅子を元に戻す。
やれやれ、と態度に丸出しすればさすがに怒られた。
これができるのも付き合いが意外と長く、色々と気にかけてもらっているからだ。
話すようになったのはこの病院に入ってすぐのことだから実際荒北先生よりは長い付き合いになる。

「で、何か」

「ああ。荒北とはうまくいっているのか?以前首に酷い噛み痕をつけられていただろう」

「あれすっごく痛かったです…。でも嫉妬みたいな感じだったので普段は別に何とも」

まあ噛まれるけど。荒北先生に噛まれるの好きだけど。

「あいつは夢中になると歯止めが効かないところがあるし、お前は良くも悪くも気にせず流すところがあるだろう」

「んー、荒北先生のことは気にしてますよ?」

「ほう。なんだ俺のお節介だったか」

「私、きっと東堂先生が考えてる以上に荒北先生のこと好きで大事です。大丈夫ですよ」

「そうか」

おお、美形の微笑みは破壊力がすごい。
そしてやっとカツ丼に手をつけ始めた東堂先生。
ものを口に駆け込みながら食べるなんて珍しい。

「疲れるとこうして丼を食べたくなるのだ。はしたなくてすまんな、許せ」

「凄くいいと思いますよ」

口元の米粒をペロリと食べる東堂先生、なかなか素敵じゃないか。

「人の心配してないで、先生も好い人見つけて下さい」

「言ってくれるな」


はやくこのお人好しを愛で包んでくれる人が現れますように。



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