2
「漕ぎにきィ」
普通の自転車ほんと似合わないなこの人。
チェックインを済ませさっそくレンタルした自転車で芦ノ湖に向かう。
靖友さんはロードバイクに乗りたくてうずうずしてるように見えたけど私に合わせてもらい普通の自転車だ。
「名字ちゃんがアウトドアって違和感あるね」
「…自覚はあります」
「予想通り体力ねェし」
「もう、苦しい」
サイクリングコースを出発して数分だが一年分の汗を流してる気がする。
「そんな息上げるようなコースじゃねっつーの」
楽しみしてた紅葉も楽しむ余裕がない。ていうか靖友さんが速すぎるんじゃ…
靖友さんの後ろをひたすら無心で漕ぎ続け、そろそろ休憩の提案をしようと顔を上げるとニヤリと笑う口元が見えた。
「ほら見えたぜ」
「う、あ」
芦ノ湖だ。
空気が更に綺麗になった。水辺だからなのか少しひんやりとした空気だ。
「すごいって言葉の陳腐さったらないですね。でも他に浮かばないや」
「すごいならすごい、でいいんじゃないのォ?」
「…そうですよね」
言葉を尽くしただけ嘘っぽく聞こえてしまう程すごいものが世の中ある。
それを私は知っているじゃないか。
「靖友さん好きです」
「…突然ダナァ」
「言いたくなったんです」
「随分可愛くなちゃって」
結婚とか子供とかそんなのは結果だ。私の人生の目的はこの人と一緒にいること。今はただそれだけだ。
この気持ちで眺めた芦ノ湖は今しか見れない芦ノ湖だ。
また何度でもここに来よう。この人と。
おおかみ先生完結
2014/11/30