それでいいのだ
「箱根だ!」
「ネ」
紅葉で色づく山が本当に綺麗だ。
普段コンクリートと蛍光灯と消毒液の匂いに囲まれているせいかこんな自然の大きく美しい様なんて忘れていた。
病院の中庭の紫陽花や銀杏、桜も健気に毎年蕾がついて季節を伝えてくれけどそれとは比べ物にならない。
なんといっても大きい。
環境の中に自然があるのではなく自然の中に環境がある。
「名字ちゃんはやくー」
先程まで隣にいた靖友さんは少し先で待っていてくれた。そうだ、チェックインの時間が迫ってる。急がなきゃ。
「たまには手繋ご」
スッと指と指が絡んだ。
「っ」
「…ナニ?」
「いや、あの」
思わず驚いてしまった。正直男の人と手を繋いで歩くのなんて小学生ぶりかもしれない。意識してなかったけどこれまで付き合った人ともしたことない。したいなんて思ったこともなかった。
「イヤなの?」
「そうじゃなくて、は、恥ずかしいかも…」
「散々触りあってんのに今更ァ?」
「それとこれは何か違うんです!」
「ふーん」
私の赤面を見たからか靖友さんは上機嫌だ。
定期的に繋いだ手をにぎにぎしてくる。ちょっとかわいい。
「ココ」
「雰囲気あって素敵です」
宿は古い日本家屋の民宿だ。
「一泊でゴメンネ」
「また来ればいいんです」
またにぎにぎしてくる。新しいコミュニケーションだなこれ。
偶然お互い2日の休みが重なったのだ。これは行くしかない!ということで急遽箱根旅行にやって来ました。
あまり時間もないので観光というより二人でのんびりできればいいかな。