白い肌に汗が流れるのが見たい
「ふ、福ちゃん!!」
あの荒北先生が取り乱している。
その相手は製薬会社の営業担当が代わり、外科の教授にその挨拶に来た新しい営業の方らしい。
驚いたような身振りで話し掛ける荒北先生とそれに落ちついて返答する製薬会社の方をナースステーションから遠目に眺めている。
先生、驚いてるけど嬉しそう。
あ、こっち見た。そしてこちらに歩いて来るふたり。
「名字ちゃん、これ福ちゃん」
「福富です。初めまして。名字さんの噂は予々聞いている」
「えっ」
荒北さんを見ると俺じゃねェぞと舌打ちされてしまった。
「どうせ、東堂か新開だろォ。ったく」
「その通りだ」
「えーと、福富さんも荒北先生や東堂先生方と同じ高校の同級生なんですか?」
「そー。福ちゃんが部長だったんだぜェ」
荒北先生、自慢気で可愛いな。
こんなにわかりやすく人に好意を向けてるのは初めて見たかも。東堂先生や隼人さんには信頼はあるだろうけどいつも通りツンツンしてたし。
「そう言えば、皆さん何部だったんですか」
「…ロード」
「ロード?」
「わかりやすく言えばチャリンコだァ」
チャリンコ、つまり自転車か。
失礼だけどマイナーなスポーツなんじゃないかそれ。
「あ、荒北先生んちにあったあの細い自転車に乗るんですか」
「そーそー」
あの自転車、すごくスタイリッシュに感じたから覚えてる。
「でも、今でもあの自転車乗ってますよね。凄く手入れされてるみたいだったし」
「アマチュアの大会ならよく出るしなァ」
「へえ!」
「名字さん、もし興味があれば見に来るといい。次の大会は来月だ」
あの自転車を漕ぐ荒北先生が少し見たいかもしれない。