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丸テーブルを囲み、楽しいそうに話している三人におばあちゃんが送ってくれたお気に入りの緑茶を出す。
長居するつもりはないらしいけど話は尽きそうにない。
しかし眠い。明日も当たり前に仕事だ。さっさと寝てしまいたい。
気遣いは無用って言ってたし、よし、シャワーを浴びてしまおう。
シャワーを済ませリビングの扉を開けるとそこには荒北先生しかいなかった。湯飲みにお茶を入れ直して隣に座る。
「長居するつもりはねェって言っといて悪かったな」
「いえ、むしろ何も言わずシャワー浴びに行ってすみません」
「そんなの全然いいヨ。話遮らないようにしてくれたんだろォ」
「…あの、二人はどこに?」
「東堂んち行った」
「は?」
あ、先生の口角が上がった。
ていうか家に荒北先生とふたりという事実に気付いてしまった。
「新開の職場からだと東堂んちの方が近いんだよネ。だから移動するよう説得すんのが目的だった。名字ちゃんちから追い出したかったし」
「…なんで?」
先生は少し睨むようにそんなのわかんだろォと吐き捨て私の首を触った。噛み痕を撫でる手付きが優しくて目を細める。
「好きだからァ」
「え、」
「名字ちゃんが好きだから嫌なんだヨ」
「好きって…」
好きって、なんだろ。
荒北先生への気持ちは恋ということで答えを出したはずなのにその先生に好きと言われて何故か素直に喜べない。
「ほんとに好きなんですか。ほんとに、」
「大丈夫。名字ちゃんと同じ"好き"だから」
「同じ?私、こんな風に人を欲しいと思ったの初めてで、これって同じ?」
「ハァ、名字ちゃんかわいーわ。本気になったら急に慎重ダネ」
だって、せっかく見つけた気持ちがもったいないことになったらすごく嫌だ。
背中をぽんぽん叩かれて、まるであやされてるみたいだ。ていうかあやされてる。
ああ、いい匂い。
いつの間にか気持ちも持ってかれてた。本能は間違いなしだったのだ。
「匂い好き、あと口角と目尻、あと触る手も。好き。先生好き、好き」
悲しくなんてないのに涙が出た。
顎から滴る涙を荒北先生が上へ上へと舐めとっていく。最終的には眼球を舐められ、驚いて泣き止んだ。
「衛生的に、よくないとおもいます」
「ったく、バァカチャンが。
とりあえずさァ、いい加減食っていい?」
返事代わりに先生の首に吸い付いた。