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目が覚めるとあると思ってた背中がなかった。
早朝出勤だと言っていた先生はもう行ってしまったのかな。
のそのそと起き上がり、寝室を出るとリビングの机の上にはメモ書き。
「台所に、スープ」
コンロの上に置かれた鍋の蓋を開けると中にはミネストローネが入っていた。
「いい匂い」
温め直す必要はなさそう。つい先程まで先生が家にいたのがわかるくらい湯気が立ち込めている。
今すぐ食べたいけどまず顔を洗おう。
洗面所の鏡で自分の顔を見て驚いた。
目もとがすごく浮腫んでいる。
「ひどいな」
出勤まで一度家に帰る時間はありそうだ。
今日は厚化粧決定。
寝るとき荒北先生に借りた部屋着は洗って返すべきだろうか。でも洗剤の匂いって好き嫌いあるだろうしな。悩んだ結果置き手紙と一緒に置いておくことにした。
「うま」
荒北先生のミネストローネは少し荒いけどトマト本来の味がよくした。実家のおばあちゃんのつくるトマトを思い出す。
外食ではなくて人が作ったものを食べるのはすごく久しぶりだ。温もりが身体中に染み渡りまた涙が出てしまった。
亡くなったおばあさんの病室には新しい患者さんが入っていた。喪失感はずっと残るだろうけどそういうものなのだと一人納得する。
窓の外では紫陽花いっぱいの中庭が見えた。