狼と猫
「久しぶりだなァ」
ああやっぱりマタタビでも持ってるじゃないのか。
休憩中に給湯室に入るとコーヒーを飲む荒北先生に出くわし、惹かれてやまない雰囲気と匂い引き込まれるように近づく。
「あ、目くま」
忙しいのだろう。担当患者が立て続けに体調が急変したと噂で聞いた。
顔も少し痩けた気がする。
「へえ、名字ちゃん心配してくれんの?」
先生の頬に触れた手を上から撫でられる。
「それなりにしてますよ」
少し驚いた顔だ。ちょっと好きかも。
すると荒北先生にゆっくり腕を引かれ抱き締められる。頭上で深呼吸が聞こえた。
「やっぱこの匂い好きだわ」
…一瞬、自分の思考がバレてるのかと思って焦った。
「私の匂いが好きなんですか?」
「そう」
「私も、先生の匂いすごく好き。引っ張られる」
頭を胸板にゴリゴリ押し付けると突然引き離された。
あ、また驚いてる。
「匂いって香水とか体臭ってことかァ?」
「なんか違くて、雰囲気みたいなそんな感じが鼻でわかるみたいな…」
「ふーん、じゃあ一緒だネ」
「一緒?」
「そう。俺鼻がよくて。結構前から気になってたんだよねー名字ちゃんの匂い」
続けて匂いで認識されて嬉しい。
と首もとで呟いた先生に首を噛まれた。
「あっ」
先生の匂いにただでさえ興奮していたのにこれはまずい。
一応仕事場ということもあり抑えてたものが爆発しそうだ。
「ぁ、はぁ」
噛んだ跡を上から舐められ、すがるように先生にしがみつく。
私もその首に噛みつきたい、そう背伸びをしたところで給湯室の扉が開いた。
「あ、先輩」
「…あんたたち」
ゲンコツをくらった。荒北先生も。
お互い顔を見合せると先生の口角がキュッと上がり笑った。この口角の上がり具合が好きなんだよね。
思わず口の端にキスしてしまった。
驚いた顔もいい。先生の表情が崩れるのが好きなのかもしれない。
先輩からの説教は甘んじて受けようじゃないか。