キミの素顔
私の席の前に座るラビ君は、クラスの人気者だ。頭が良くて、スポーツもできて、明るくて、楽しい人。だからクラスといわず学年でも、学校でも人気者。それにひきかえ私はクラスメートその32ぐらいの立ち位置。でも、そんな私でも優しいラビ君は、よく気にかけてくれる。
「ナマエ、眼鏡はずして?」
「また…?前もはずしたよ?」
「いーの。いーの。はい、はずしてみせて。」
ラビ君はいつも私にそう言う。ラビ君に話し掛けられて嬉しい半面、こんな地味な私じゃなくて、もっと華やかな子達とお喋りすればいいのにって思う。ラビ君の周りはいつもきらきらしてる。可愛い女の子やかっこいい男の子がいつも傍にいる。類は友を呼ぶってこのこと?…違うか。
「はい、はずした。」
「ちょ、はやっ!もっと見せてさ!」
「見たっていいものないですよ?」
「あるある俺特!」
「おれとく?なぁに、それ。」
「いいから。はい。」
ラビ君は眼鏡をかけ直した私の手を取って、再び私から眼鏡を外した。わわっ、ラビ君に手握られちゃった!ラビ君とこうして二人きりでお話してるだけでも私はどきどきしちゃうのに…!眼鏡を持つ私の手をしっかり握るラビ君は、どきどきの私と違って、いつも通りのにこにこ顔だ。ラビ君は私の眼鏡を外した顔でなんでそんなににこにこしてられるんだろう。おかしいところあるのかなぁ。いつも鏡の前でチェックしてみるけど、そこまでおかしい顔じゃないとは思うんだけどなぁ。そりゃぁ、ラビ君がいつも一緒にいる女の子達と比べたら見劣りはするけどさ…。
っていうかもうっ!
そんなに見詰めないで!
「…ラビ君…」
「ほいさ」
「眼鏡ないと私何も見えないの。」
「そんなに?俺見えてる?」
「それくらい見えてるよ。」
「どれくらい見えないの?明日も見えないくらい?」
「黒板の文字は見えないかな。明日は明日がくれば見えるよ。」
ふーん、なんだ結構見えてるじゃん。とラビ君は私の言葉にちょっぴりつまんなそうにしてた。なんだろう、眼鏡外したらのび太くんみたいに目が3になるとでも思ったのかな。
「…コンタクトにしようかなぁ。」
「えっ!なんでさ!」
「なんでって…。眼鏡、やっぱ地味?だし。コンタクトしたら印象変わるかなって。お化粧とかも頑張ってさ。」
いつもラビ君の周りにいる人達みたいに華やかになれば、私もいつもラビ君の傍にいる権利を得られるだろうか。できれば私、一緒にいたいな。ラビ君と誰も居ない放課後の教室でこっそりお喋りするんじゃなくて、休み時間、教室の真ん中とか、廊下とか。いつもどこでもラビ君とお喋りしてたいな。
「ダメ。」
「え?」
「ダメダメダメダメダメ!ナマエが眼鏡外すのは俺が許しません!」
「どうして…、っていうかいい加減眼鏡返してくれる?」
「ダメ!」
む…。ラビ君が意地悪してくる。さっき、眼鏡ないと何も見えないって言ったのに。眼鏡ないままじゃ迎えられる明日も迎えられないよっ
「ナマエが眼鏡外したら俺の明日がなくなる!」
「どうして?明日は寝れば来るよ。」
「来ても来なくなっちゃうの!」
「…よくわかんないです…」
頭のいいラビ君のいうことは、ちょっと馬鹿な私にはわかりません。それでもラビ君はだめだめだめを繰り返し、あの、ちょっといい加減手はなしてくれるかな、と言い掛けたとき、ラビ君は大きな音をたてて席を立った。あのだから手…
「ナマエ!」
「はい」
「俺は決めた!決めたさ!」
「うん、なにを決めたの?」
「ナマエがコンタクトにするっていうなら!」
うん、私がコンタクトにするっていうのなら?そう私が首を傾げた瞬間だった。立ったせいで少しぼやっとしたラビ君の顔が急にクリアになった。いや、違う。クリアになったのは、すぐそこにラビ君の顔があったからだ。そして、
「ちゅっ」
「ナマエがコンタクトにしたら俺毎日毎時ナマエにちゅーしちゃうけど!それでもコンタクトにする!?」
「す…し、しない!ない!」
「よし!なんかそれはそれで悔しいけどよし!とりあえずよし!じゃ、帰ろ!ナマエ!」
「う、うん!め、眼鏡返してラビ君!」
「おう!」
キミの素顔は僕のものさ!だってキミを知ってからずっと僕の心はキミのものだから!
その日はよくわからないのだけど、ラビ君と手を繋いだまま帰ったの。それからその日を境に、ラビ君は私の傍を離れなくなった。休み時間、教室、廊下。嬉しいけど、ちょっぴり恥ずかしい。
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