神田元帥


神田ユウはエクソシストの頃から近寄りがたいと思っていたが、元帥になってからは更に近寄りがたくなった。ただでさえ目で人が殺せるくらいの凶悪顔だというのに、元帥という権威までついてきたので彼の機嫌でいつ自分の首が(物理的に)飛んでしまってもおかしくない。ゆえに神田元帥の前では一ミリのミスも許されない。彼が左を右だと言えばそれは右、右以外の何者でもない。むしろ今日から左が右、そう、左お前は右だ!


「元帥、この間言われました書類をお持ちしました。」


神田元帥執務室の扉の前で、一人の教団員が針金を刺したかのように真っ直ぐ立ち、そう告げた。彼はつい先日神田元帥からとある件の書類を「用意しとけ」と短く告げられ、今に至る。あの神田元帥に提出するものに少しの不備があってはならないので三日三晩かけて作成し、誤字脱字不備がないか確認に確認を重ねて完成した資料である。資料を完成させることよりも、はやく神田ユウから頼まれた案件を手放したいと作り上げたそれを抱え、執務室の向こうから返事がくるのを待っていると、やや待って低い声が聞こえた。


「……あとにしろ。」

「……は……?元帥?」

「あとにしろ、今忙しい。聞こえなかったか?」


扉を隔てた低い声は一度では聞き取りづらく一度聞き返してしまったが、そのせいで彼の機嫌を更に悪くさせたような、同じ事を二度も言わすんじゃねぇよ、というオーラが扉越しからでもビシビシと感じ、教団員は顔を真っ青にした。


「しッ、失礼しました!出直します!!どうか命だけは!」

「うるせぇ、さっさと消えろ。」

「はいィッ!」


教団員は神田の言葉に、悲鳴に近いような返事をし、まだ死にたくない!とばかりにバタバタと足音をたて走り去った。それはもう扉の向こうの神田がうるせぇ足音だ、と舌打ちするくらいの逃げっぷりだった。
元帥になったからといって、いくらなんでもやり過ぎだし、横暴だ、とナマエは神田のすぐそばで怒りに震えた。そう、神田のすぐそば……神田のお膝の上で……。


「な、な、何が忙しいよ!!」


神田の膝の上でナマエはデスクに拳を落とした。ダンッと力強く叩けばナマエが「一息ついたら?」と持ってきたティーカップがかちゃんと鳴った。顔を林檎のように赤くさせたナマエだが、そのナマエを抱え上げる神田の顔は涼しい、……というよりむしろ機嫌がいいくらいだ。といっても機嫌がいいからといって彼がにっこりするわけでもなんでもないのだが。一般人から見れば機嫌が悪い(というより人相が悪い)顔でも、ナマエからすれば彼がいつもより機嫌がいいのはよくわかる。
するりと神田の手が太ももを撫でてナマエは「ひぁっ」と声をあげた。


「げ、ん、す、い〜!!」

「なんだよ」

「何だよじゃないわよ!セ、セクハラ!」

「いいだろ減るもんじゃねぇ」


減る!確かに減らないかもしれないがその言い方は何だか減る気がする!とナマエは神田の腕を掴むも、神田の手はするするとナマエの柔らかい肌を撫でてはスカートの中へと指先を伸ばした。


「い、いや…っ、ど、どこに、手、」

「あんま声出すと、外に聞こえるぞ」

「!」


つう、と骨ばった指先がナマエの下着の線を撫でる。その指先に声を失ったのか、それとも神田の言葉に声を消したのかわからないがナマエはくしゃりと困ったような、泣きそうな顔をした。その表情を見上げつつ、神田はニヤリと笑う。
生憎、この部屋には自分に用のあるものしか立ち寄らない。つまり用が無ければ誰も近寄らない場所だ。こうして息抜きに茶を用意しにくるのなんてナマエくらいだ。下手に近寄ればあの神田ユウに睨まれて殺されてしまう、なんて言われてもいるのだ。特に何もしていないのにそんな噂を立てられるのは少なからず不本意であったがナマエのこんな顔を見れたのは僥倖だった。


「さ、一息つかせてもらうか」


なんて白々しくいう神田にナマエは口をはくはくとさせた。神田の指先は第一関節だけを下着の中に入れて小さな尻を撫でた。皮膚の薄い「際」を撫でられてナマエの体がむずむずとしだす。


「一息って、お、お茶、持ってきたのに……」

「ああ、持ってきた茶請けの方が美味そうだったからな」


お前のことだよ、と見上げられナマエは恥ずかしがればいいのか怒ればいいのかわからずに顔を更に赤くさせた。恥じらっても神田に玩具にされそうだし(既にされていることに本人は気付いていない)、怒って声をあげれば誰か来てしまうかもしれない(生憎、この部屋には誰も近寄らない)。


「ナマエ」


名前を呼ばれればじっとこちらを見上げる神田がいて、そっと唇を撫でられる。それがキスをねだるものだとナマエは今までの経験上でわかっている。艶々の黒髪に切れ長の涼しい瞳、睫毛は羨ましい程に長く、鼻は高すぎもなく低すぎもなく綺麗な形をしている。その下にある薄い唇が自分を待っていると思うとナマエは恥ずかしくて仕方がなかった。


「へ、変態元帥……」

「そんなヤツのところにのこのこ茶菓子なんて持ってくる方が悪い」


口先を尖らせて言うナマエの頭裏に手を回し、神田は我慢できんとばかりその小さな顔を引き寄せた。重なった唇はすぐにナマエの唇を噛み、はやく喰わせろとばかりにぺろりとふっくらとした形を舌で撫でられた。ぴくん、と震えたナマエに神田は目を細めて笑った。


[*prev] [next#]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -