追い掛けた約束(6/6)


詳しいことは知らないけど、人伝に私の元彼は入院していると聞いた。別れを告げてお兄ちゃんからはそいつとの連絡を全て断てと言われてアドレスからその名前は消えたのだが、打撲と骨折で入院していると聞いて少し心配になるものの下手に触れてはいけないような気がして結局お見舞いに行く気はない。きっとその件に関して少なからず鍵を握っているのではないだろうかと私が踏んでいるお兄ちゃんは変わらず私の家のソファに座っていて、私はその隣にいる。


「もう海外には行かないの?」

「しばらくはな。」

「しばらく…?」


この間ずっと一緒だって言ってくれたのに!この人さっそくまた私を一人にさせる気なのか!私はお兄ちゃんに向かってキッと睨み上げるもお兄ちゃんは痒い痒いとでも言うように笑っていた。


「今回はお前との約束をはたしに来たんだよ。」

「約束…?」

「そう約束。お前が昔俺に言った言葉。ずっと一緒にいられる約束。」


お兄ちゃんがそこまで言って何となく内容を掴んだ私は思いっきり後ずさる。なんだ、それは。そんな約束、私はいつお兄ちゃんにしたのだろう。まったく覚えていない。それってきっと娘がお父さんに大きくなったらパパと結婚すると言うようなレベルな気がする。いや、幼心にお兄ちゃんに立派な恋心を抱いていた私なら言っていたかもしれない。


「お前から言ったのに、お前は男いるっていうし、最悪な帰国だ。」

「だ、だって…、ち、小さい子の約束、真に受けたの…?」

「嘘だったのか?」

「や、ち、違っ…」


そこまで言われると言ったような気がしてきた。いやむしろじわじわと記憶手帳がページを開いていく。あの時の思い出をやおらに脳内に走らせていく。ああどうしよう。思い出してきたかもしれない。あの時よりもすっごく綺麗な顔立ちをしているお兄ちゃんを前に私の体温は上がっていく。後ずさりした体はいつの間にソファの端に追い詰められていて、このまま逃げたら頭から落ちてしまう。


「嘘じゃないなら、もう一度言えよ。」

「…っ!」


言えよ、と言われた私にはもう選択肢が言うしか無くなってしまう。そんな言葉、私から言うなんて嫌だと小さく言えばお兄ちゃんは俺は最初から既に言われてしまってるんだよと返されてしまった。それでもそんな幼い時言ったあの言葉なんてなかなか言えるはずもなく、言葉になりきれてない単語をもごもごさせていたら、お兄ちゃんが楽しそうに笑った。


「早く。俺の誕生日にお前をくれよ。」

「………たんじょうび…?いつ…?」

「今日。」


多分、普段だったら先程のお兄ちゃんの言葉に頭が爆発しているんだろうけど、その前に引っ掛かった誕生日という単語に私はある意味爆発しそうになった。そんなの、聞いてない。誕生日なんて聞いてない。知らない。今知った。と言えば今言ったと言われて悔しくなってしまう。どうしてそういうことを言ってくれないのだろう。どうして大事なことをこの人はいつも私に黙ってるの?知ってたこんな事してない。もっと誕生日らしく色々と…。


「ナマエ。」


早く、と言葉を促しているのか、それともキスを促しているのか、どちらを求めているのかわからなくなってしまう程の唇の距離に眩暈を覚える。呼吸をさせてください。貴方の瞳に見つめられると呼吸を忘れて息ができなくなる。苦しい。息を吸うという動作を、忘れる。


「…結婚して?ユウお兄ちゃん。」


お兄ちゃんは、最近頭をぽんとするのをしなくなった。その代わり、色んなキスをしてくれる。キスは唇を合わせるだけではないと教えてくれた。キスがこんなにも甘くて優しくて蕩けるものだと知らなかった。何度も重なる柔らかい唇に呼吸は溶けて消えていってしまう。私の体と一緒に。とろとろに溶けてしまう体をお兄ちゃんは決して離さない。私もその手を、決して離しはしなかった。


追い掛けた約束



新しい思い出の一ページ目はお兄ちゃんのキスから始まる。


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