02



試合はいたって普通のバスケットボール。女子はバスケで男子はサッカー(雨の日は卓球)。たまに特別枠で先生チームとか出てくるけど、まぁ、体育の先生とか運動部の先生とかの集まり。女子のバスケの方に先生達はあまり参加しないけど、男子のサッカーはよく参加する。その理由は実にシンプル。なぜなら女子のバスケットボールは、怖い、と評判なのだ。


「整列、礼!」

『お願いしまーす』


私達は目の前に並ぶ先輩達の『目』に目配わせをして互いに勇気付けるように頷いた。

正直、怖い。

だってだって、目の前の先輩達めっちゃギャルだし、なんか負けなくないみたいな目付きギンギンだし、『お願いしまーす』って言ってくれなかったし!怖いって!と思いつつも試合は始まる。クラスで背の高い子をジャンプボールに行かせて私達は周りを固める。
その一瞬、私達のコート隅、壁に凭れて腕組みしてる神田先生が視界に入った。


(…本当に、応援してくれるんだ…)


(先生の周りにいる女子達も気になるけど、)先生が観戦してくれるのはちょっと意外だった。だいたい担任の先生だって決勝ぐらいしか応援しに来ないのに。副担が、ブロック決勝見に来るなんて。
と一瞬だけぼおっとしてると肩を押された。


「っわ、」

「邪魔。」

「………。」


こ…怖っ…!!
じゃ、邪魔って、わ、私まだ何もしてないしジャンプボールも始まってませんけど!!怖っ!先輩怖っ!!だけど先輩に「はぁ?」なんて言えない私は「す、すみません…」と小さく謝って友達と目配わせをする。

怖い。怖いけど頑張ろう。
絶対勝とうね。

そう目で会話をして、
試合開始だ。

ジャンプボールは私達のクラスの子が取った。(ナイス!)素早いドリブルで先輩達を抜ければゴール下には既に別の友達がいて、その子にパス!シュート!


ピーッ!


「ナイッシュー!!」

「やったぁ!!」

「次来るよ次!」


開始早々先行きいい!やったぁ!とシュート決めた友達とハイタッチすれば流れる視界の中で先生も満足そうに小さく笑ってた。(って…、なに私さっきから先生ばっか見てるのかな!試合試合!)
ボールは先輩チームに渡る。キュッ、と体育館履きを鳴らして腰を低くすると、ドンッと肩を押されてその場で小さく転けた。


「っ痛!」


ハーフパンツ下の膝が床と擦れた。え、なに、また?と顔を上げれば今度は違う先輩で。ベチャリと転けた私に審判のバスケ部員がこちらにやってきて。


「どうしたの、大丈夫?」

「あ…は、はい。」

「何か勝手に転けてんだけど。」

「ウケる、ドジっ子?」

「………。」


ええぇ…先輩まじ怖いんすけど…。もうハハハと乾いた笑いしかできなくてバスケ部員に手を引かれて立った。あぁ怖い。今の絶対ファールの部類だよね、とは訴える事はできない。だって先輩が怖いうんぬん、球技大会はファールの査定が甘くなっている、そうだ。球技大会という先生と生徒の息抜き大会では色んな生徒が参加しやすいように色んなルールが甘くなっている。例えばトラベリングとか、30秒ルールとか、ファール、とか。だからバスケ部員も大変だって聞いた事ある。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫。」


心配してくれた友達に笑って応える。大丈夫、大丈夫。これくらい球技大会の噂で聞いてたし、全然。今度は押されても絶対転けないぞ。と足に力を入れて気持ちを切り替える。
外から先輩達のボールが入ってきて先輩達の攻めが始まる。しかしその一瞬、脇から現れた友達が先輩のドリブルをカット!


「ナイスカット!」


そう皆で声を上げてそのボールを自ゴールへと回す。そのパスからパスは私にも回ってきて、次の人へと回す瞬間、先輩の影が見えて慌ててパスを回した。瞬間、腕がチッと鳴って熱くなった。


「チッ、」


思いっきり舌打ちを浴びせられて、わ、怖い!と思いつつも回したパスがちゃんと渡って安堵した。だけど次のパスが繋げない。先輩が一人に二人付いてる!こりゃ無理だと思えばそのボールを後ろに流して他の友達が受け取って私に目配せをする。それに私は頷いて、ままままままままかせろっ…!とコートを走ってゴール下に向かう。大丈夫、さっきもシュート決まったし、大丈夫、落ち着いてやれば大丈夫。そう深く息を吐き出せば、隅で立ってる先生も、頷いてくれた気がした。

ボールが私の手に渡ってくる。大丈夫。ノーマーク。イケる!

そうボールを構えてゆっくりジャンプをしたその時、


「審判!」


後ろで先生が声を上げたのと同時に体が何かに吹き飛ばされた。視界がゴールから擦れる。慌てて手を離したボールは放物線どころかゴールにすら向かってくれなくて、あ、これ外した。と思った瞬間、私の体は床に投げ飛ばされた。


「っ!!」


きゅぅっ、とまた床に肌が擦れるのだろう。あれ結構痛いし治るの遅いんだよね。そう目を瞑った。


「………」


けどいくら経ってもその痛みは来なくて、どうしてだろう、と目を開ければ私は何やら抱き止められている。………………誰に?


「……っせ、先生!?」

「…大丈夫か?」

「え?え、先生、なにして…」


意味がわかんなくて。
だって床に投げ飛ばされたと思ったら投げ飛ばされてなくて、先生が私の下にいて。むしろ先生が大丈夫!?どうして!?と泣きそうな顔をした私をそっちのけに先生は私の足やら腕やらを見て舌を打った。せ、先生…、先生が舌打ちなんてしちゃ駄目だよ、と顔を上げれば先生の目が何かを捉えたまま鋭くて。それにびっくりした私は恐る恐るその視線先を辿れば、その視線先は先輩達だった。先輩達はバツが悪そうに先生からの視線に逃げていた。それに私はハッとした。先輩、さっき私が先生にからかわれてた時にいた女子達だ。そこで私はやっと理解できた。


あ…だから、か。


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