球技大会


私の手から抜けたボールはお世辞にも綺麗な放物線を描いてなかったけど、ボールはまるでスローモーションのようにゆっくりとゴール枠金具をぐるぐる回って(あ、うそ)ぐるぐる回って(うそうそ!)編みに吸い込まれるように入っていった!(わ…まじで…!?)

ピーッ!!

試合終了のホイッスルが鳴ったと同時に友達がわっと私に駆け寄って、抱き締めて、頭をぐりぐりして、背中ばしばし叩いてきた。い、痛い、痛いけど嬉しい!楽しい!


「ナイッシュー!よくやったぁー!!」

「すげー!やるじゃんナマエー!!」

「い、痛い痛い!」

「やったー!ブロックの決勝進出だよー!!」


ぐりぐりとやられる腕から抜け出れば審判のバスケ部男子が「早く並んでー」と声をかけてきて、私達はじゃれあいながらも整列した。目の前で整列する一個上の先輩達は悔しそうにこちらを睨んでてめっちゃ怖かったけどブロック決勝進出に私達はそれどころじゃなくってついニコニコしてしまった。

取り合えず、球技大会、ブロック決勝進出だ!


技大会



熱中した試合で上がってきたハーフパンツをヘソ下ぐらいまでに下げて体育館出てすぐの冷水機へ皆で行こうとした。体育館入り口は自クラスの応援に来た生徒で溢れていたけど、今はそれ以上に女子がたくさんそこにいた。なぜならそこにはスラッと伸びた長身の男性がいたから。いや、長身うんぬん、人(主に女)を惹き付ける超かっこいい先生がいたから。


「あっ!先生じゃん!」

「神田先生ーっ!」

「先生ーっ」


私の横を友達が走って行く。友達の足は冷水機に行くはずだったが、そこにゴールがあるから入るんだというボールのように吸い込まれて、人と人に囲まれてうんざりしてる神田先生の元へと行った。
まるでモデルのように長い手足に広い肩幅。流れるような黒髪は一本で結ばれている。形の良い唇と筋の通った鼻筋、そしてつり上がった黒目。どんな女の子だって一目で恋に落ちちゃうような人が、神田先生。私達のクラスの副担任だった。


「先生、次私達試合なの!」

「へぇ。」

「応援してね!」

「見れたらな。」

「勝ったらドーナッツ買って!ミスド!」

「ふざけんな。」


先生は(学年関係なしに)自分中心に集まってくる女子と女子と女子達に惜しみ無く、ダルそうな、げんなりした目を向けて、掛けられる言葉言葉に無愛想かつ適当に答えていた。…先生、人混みとか嫌いなの皆知ってるだろうに。それでも先生に引っ付きたいというのは恋する乙女心理なのかしら。…まぁ、わからなくもない、かな。だって、私も皆みたいに積極的な性格だったら、先生の元に走って行きたいし?なんて思っては、遠巻きにそれを見つめているワタシ。
そんな端っ子精神な自分に小さく溜め息を吐くと、その嘆息に気付いたかのように、思いっきり生徒達をウザそうにあしらう先生の目が、ふとこちらに向けられた。わ…、びっくり、した。いきなり、目が合って。
するといつの間にか先生の横をキープしてた友達が私を指差して、


「さっきナマエシュート決めたんだよ!」


と先生に言った。
すると先生はさっきまでのうんざりした目を引っ込めて意外そうな目で私を見た。


「へぇ。」

「そ!で、逆転勝ち!次ブロック決勝進出!」

「ほぉ…。」


ちょ、ちょ、ちょ。何勝手に先生に報告しちゃってんのアンタ!シュート一本決めたぐらい何とも…!た、確かに体育万年3の私からすればスゴいけど、皆に比べたら大したこと……


「シュート、決めたのか?」

「…っ」


女の子の塊から先生が私に言って、私は塊達の目に圧されながらもしょぼしょぼ先生の前へと立った。塊だった女の子達は先生に相手にされなくって帰っていく子、まだ先生と話したそうにして残っている子に分かれて、まだ話したそうにしてる子達の視線が一身に私に当たってまた別の意味で痛かったけど、私を見下ろす先生の視線に体が熱くなって痛覚がマヒしてくれそうだった。


「う…うん…。」


こくん。頭を小さく下に振れば「そうか」と先生のテノールが耳奥に小さく残った。そして先生の周りにいる女の子達が「きゃぁっ」と声を上げたのと同時に私の頭にぽすんと何が乗った。


「…………。」


ぽす、ぽす。

と優しく叩かれたそれは先生の大きな手で。


「次も決めたら明日は槍が降るな。」

「…………は…。」


言われた言葉に私はしばらく固まったけど、先生が口端を上げて笑ったのを見てそれが何を意味してるのかと理解すると顔を真っ赤にして吠えた。


「そ、そんなことないもんっ!」

「どうだか。ボールみたいな顔しやがって。間違えて自分がゴールに突っ込むなよ?」

「なっ…!!」


そ、そんな事するわけないじゃん!先生ばかじゃないの!?と言いたくても先生のそれはそれは楽しそうな顔に言葉が消えて口がぱくぱく鳴る。私は先生の腕を強く振り払ってキッと睨んだけど、まるで痒い痒いと言うように先生は目を細めていた。それがまた腹立つ!

ピーッ!

私の腹立たしい気持ちとホイッスルが同時に重なる。はっ、と顔を上げれば友達が先生から離れて私の肩を叩いた。


「あ、次うちらの試合だよ!ブロック決勝!」

「水、水!」


そうだ。先生の出現に忘れてたけど冷水機に行こうとしてたんだ。私達は急いで体育館を出て隣の冷水機にしがみつく。水を飲み終わった順に体育館に戻って、私が冷水機にしがみつけたのは最後だった。急がなきゃ。髪を耳横にかけて水を一口二口、口に含んで顔を上げれば先生がそこにいた。


「んぐ…」


水を入れた、先生曰くボールみたいな顔で睨めば先生が小さく笑った。

今度は違う。
口端で笑うんじゃない。
柔らかい、表情。


「応援してやるから頑張れよ。」


微笑み、みたいな。
私は水を飲み込む。


「…言われなくとも。」


ブロック決勝戦だし。
先生に言われなくたって。
頑張るもん。

うん、頑張るもん。

そう小さく唇を尖らせて言って私は先生の横を走った。(ああ、可愛くない。)


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