愛玩



私のご主人様はとても綺麗な顔立ちをした男性だ。歳は20代後半くらい。手足がすらりと長くて、でもひょろひょろしてない。かといってすごいマッチョか、と言われるとそうじゃなくて、程よいマッチョ…?あと、髪がとっても綺麗。背中まである黒髪なんだけど、いつも一本に結んでて、艶々しててとても綺麗。とっても綺麗な人なんだけど、でもちょっと変。がははと笑ったところあまり見ないし、あまり感情の起伏が見えない。そして、私なんか拾っちゃうし。こんなまっくろくろな黒猫の獣人をだよ?しかも捨てられた時の私、だいぶボロボロで血だらけだし、キズモノだし、臭かったと思うし、喋れないし。ご主人様はなんで、私を拾ったんだろう。

獣人の価値はその能力だ。その能力を求める人間によって獣人の良し悪しもそれぞれだけど、一番使い勝手がいいのは家事だ。一応、私も生きるために炊事洗濯はできるけど、私は喋ることができない。誰かが来ても受け答えができないし、電話が来ても出ることができない。そんな私を、ご主人様はなんで置いてくれるのだろう。


「喉の傷、だいぶ治ってきたな。」


いつか切れた首筋を、つ、となぞられて思わずビクッと背中を揺らしてしまった。擽ったいような、気持ちいいような変な感じだった。私の首にはすぱっと切られた傷がある。まぁ、文字通りすぱっと切られたんだけど。声はその時に出なくなった。(あ、でもご主人様が言うには声帯とかは傷付いてないから、いずれまた話せるようになるって言ってたけど…。自分、どんな風にして喋ってたかな?)だから私はキズモノの獣人。声も出ないし、首にも傷がある。こんな獣人、愛玩にもならないよ。


「ナマエ…」


ご主人様に見せていたキズモノの首にリボンを結んでるとご主人様が私の顔を覗き込んだ。
な、なんですか、そう首を傾げてもご主人様は私の顔から目を逸らさない。むしろその目が私に留まって、薄く唇が開かれた。その目に、空気に、流れに、唇に、私は察する事ができた。

あ、く、くる。

ご主人様の綺麗な顔が私に近付いて、唇が、額に、目尻に、頬に、

くちびる、に、ふれる。


ちゅ、と音をたてて離れる唇と唇に、は、と短く息を吐けばご主人様が小さく笑った。


「いい加減、なれろよ。」


思いっきり瞑った瞳を開けるとご主人様はそう言う。ご主人様は私によくこういった行為をするけど…、無理です、無理ですご主人様。だって私、愛玩としての扱いはされたことがなくて、愛玩獣人はこういう時どうすればいいのかとかもわからなくて、そもそも愛玩獣人って何するの?何をすればいいの?でもこういう事をするのは愛玩だからだよね?
ご主人様は私を愛玩として飼っているみたいだけど、残念ながら私は愛玩の知識がない。
でもご主人様はそんな私に怒らず、構わず唇と唇を合わせます。何度も、何度も、角度を変えたり、唇をあむってやったり、唇を舐めたり。
ご主人様からのこういう事、すごく眩暈がします。体の力が消えて行きそうな、意識がふわふわどこかに行っちゃいそうな、よくわからない感覚。現に尻尾と耳がふにゃっとなる。ご主人様の匂いが一番強く香るの。そしてそれをたくさんたくさんやられると、私の体はふにゃふにゃになって、フローリングへと溶けてしまう。(だけどそれはご主人様の腕に寄って阻止される。)


「ナマエ、まだバテるなよ。」


愛玩獣人への道のりは、長いです。ご主人様。




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