03
ウェイターさんに案内された場所はお店に入って一番奥の部屋だった。へ、部屋って…な、何これすごいVIP待遇なんですけど…。
「知り合いの店だ。」
とユウは言った。
ユウの知り合いのお店…。こんな立派なお店を持ってるんだ…。だからテーブルマナーとか気にしなくていい、とユウは言っていた。…全てお見通しってことだったのね。(それを先に言わないとか…相変わらず意地悪、だ。)
「ユウ、さっきはペアリングありがとう。…すごく、嬉しい。」
料理が出てくる前に私は先程のペアリングのお礼をユウに言った。私が誕生日でもないのに、むしろユウの誕生日なのに、本来ならプレゼントするべき立場の私がプレゼントされてしまった。嬉しい。すごく嬉しいけど、とても複雑な気分だ。だって、私、まだユウにお誕生日っぽいこと何もできてないし、あげてないもん…。
「ユウ…。」
「ん?」
「さっき言ってた、欲しいものって何?私でも買えるもの?」
お金を使うな、なんて言ってくれたけど、私、やっぱりユウには何かをプレゼントしたい。お祝いをしてあげないと、ペアリング、付けられないよ。お願い、お祝いをさせて。そうユウを見つめれば、ユウは困ったように笑って、
「俺が欲しいものは、お前が持ってる。」
「私…?」
「あぁ。」
ユウはポケットから一枚の紙を取り出して、それを広げて、私の前に差し出した。白いテーブルクロスの上に置かれたその紙に、その紙に書かれた文字に、私は目を疑った。だって、だってだって、
「ユウ…!こ、これ…!」
「ここに、お前の名前が欲しい。」
「婚姻届…っ」
私の目の前に出されたのは婚姻届だった。
「えぇっ!?」
「お前の苗字、俺にくれ。」
「えっ、ちょっ、待って…!」
そ、そんな!だ、だってこれ婚姻届でっ、婚姻届はっ、け、結婚…!!
「今すぐじゃない。お前の学業が終わるまで待つ。」
「違っ、違う、そうじゃなくて…!」
だ、だめだっ!
頭が完全に爆発した。な、何がどうなってるの?どうして、だってこれ、ユウ、これ、結婚で、わ、わたし…、わたし……、
「私で……いいの…?」
「お前がいい。」
黒い、黒い、深くて黒い真剣な瞳に捕らわれて、私は涙が、出た。意識とか、全然なくて、本当、呼吸をするかのように、すうっと流れて、わたし、泣いてる…。う、嬉しくて、嬉しくて嬉しくて、
「…なんで泣くんだよ。」
机を挟んで、ユウの手が伸びて、私の頬を包んで親指で涙を拭ってくれた。「化粧崩れるぞ」と苦笑混じりに言われたその言葉を私は返すことができなかった。自然に流れた涙が今度は感情を持って一粒一粒流れていくものだから。
「だ、だって…、嬉しくて…っ、私…、」
「泣くなよ。」
撫でるように涙を拭われて、私はその手に手を重ねて、ありがとう、ありがとう、って涙を流した。ユウはそんな私の隣に座ってくれてよしよしと頭を撫でてくれた。
「誕生日、祝ってくれんだろ。」
「うん…うん…!」
化粧が崩れないように涙を拭ってユウの胸に顔を埋めた。優しく抱き締めてくれるこの腕が、これからもあるんだと思うとすごく嬉しかった。私は気を利かして渡してくれたウェイターさんのペンで名前を書いた。自分の名前をこんなに緊張して書いたのは高校受験以来で、書き終えると胸がじんわり熱くなった。涙がまた落ちる前に、私は婚姻届をユウに渡した。
「お誕生日、おめでとう。ユウ。」
「あぁ。」
ありがとう、というユウの言葉はキスと一緒に蕩けた。ウ、ウェイターさんがいるよっ、と慌てたけど流石一流。後ろを向いたその時にはウェイターさんはいらっしゃらなかった。(空気を読むことに大変長けてらっしゃる。)それからペアリングを二人で付け合って「結婚式みたい」って言えば「そん時はこれより良いものをやるよ」と言われた。
「ユウの誕生日なのに、私、たくさんもらってる。」
運ばれてきた、初めて食べる綺麗で豪華な料理達に舌鼓を打ちながら私が言うと、ユウは慣れたフォークとナイフさばきで綺麗に食べあげていた。
「俺ももらってる。」
「私何もあげてないけど。」
婚姻届にサインしただけだよ?と首を傾げれば、ユウも一緒に首を傾けて、ふ、と口元をゆるめた。そして、
「お前をもらった。」
なんてサラッと言ってくれて、どこか幸せそうに笑ってくれた。
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