ハニーフレンチトースト(3/3)

翌日。
審神者は近侍を目の前に正座させられていた。いや、自らしていた。


「夜な夜な何処に行ってるかと思えば、夜のお店でお仕事ねぇ。で、その給金を本丸の洗面所のリフォーム代に当てようとしていた、と。」


時刻はもう昼を迎えようとしていて、遠くから昼餉のいい匂いがした。今日もフレンチトーストだろうか、バターの香りがする。実は昨日、エリア長と連絡を取っていたためフレンチトーストにありつけていなかったのだ。今日は食べられるだろうか、いや、目の前の光忠の呆れ具合からすると難しいかもしれない。


「…だって、本丸の人数も増えたし、水回りは大事だし、」

「もちろん大事だけど、そういうこと、普通相談しない?」

「…お金で解決できる問題だと思いました。」

「だったら尚更だよ。」


俯きながら正座している視界に、光忠が膝を折って入ってくる。あの後、私の手を引っ張って店を出た時の目とは違う、穏やかないつもの蜂蜜色が見えた。


「僕は、主の近侍なんだよね?」

「…近侍だよ…。だから言いたくなったんだもん。いつも…、世話になりっぱなしだから。」


炊事洗濯、出陣のことも、審神者業のことも、たまには報告書の手伝いだってしてくれる彼に、これ以上負担や不安を見せたくなかったのだ。リフォーム代が無いだけで別に財政難というわけでもない。少し自分が頑張れば解決できる問題に、何故彼を通す必要があり、また一緒に頭を悩ます必要があったか。光忠には日々頑張ってもらっている分、自分ももっと頑張らねばと思えたのだ。
だが、彼はそれが不満だったようだ。自分がこそこそと夕方に出掛け、明け方に帰ってくる。聞いても毎日ふらふらで帰ってくるし昼頃起きたと思えばぐったりとしている。隠し事まではいかないが、近侍にも言えない事があるのかと彼は少し拗ねていた、のだろうか。


「僕は、主にたくさん頼られた方が嬉しい。」

「…そうやって甘やかすのいくないと思います。」

「キミこそ、近侍を甘やかすのは良くない。」


僕はキミにとって頼り無い男なの?と聞かれ、それだけは無いと首を振った。すると彼は、それならばいいと嬉しそうに目を細めた。


「なら、もっとたくさん僕を頼ってよ。なんだって叶えてあげる。」

「う…っ、眩しい…!伊達男オーラが眩しい…!」

「ほらいつまでも座ってないで。お昼ご飯食べに行くよ。昨日食べ損ねてるフレンチトースト。」


キミのためにまた焼いたんだから。と彼は言った。駄目審神者製造機はまさにコイツのこと。
のちに、政府から発行された「審神者入門書〜失敗しない近侍の選び方、育て方〜」本で、へし切長谷部、一期一振に次いで、燭台切光忠の名が続くのであった。


「そう言えば、エリア長にマシン頼んだの?」

「いいや?せっかくだから洗面所のリフォーム頼もうかな。」

「え、悪いよ。せっかく接待してたんだから買ってもらいなよ。」

「いや、リフォームさえ解決すれば、マシンはいらないから。」

「………なんで?」

「だって、毎日毎日昼頃起きるキミが言ったんだろう?『美味しいコーヒーが飲みたいって』。」


でも夜の仕事辞めたらそれはいらないよね?とさり気なく私の腰を抱き寄せ食堂へと向かった光忠に、私は何もかも敵わん、とがっくり肩を落とした。
…駄目審神者製造機とはまさにコイツのこと。

ハニーフレンチトースト

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