■ 私のカノジョを紹介するわ
―私の可愛いカノジョを紹介するわ。


「玲央姉…っ、ま、って、」

「だーめ。言ってる傍からこれなんだから。ああ、もしかして名前なりのおねだりなのかしら?」


唇が触れるか触れないかの距離でくすくすと笑えば、微かに触れた唇に名前がぴくりと震えた。頬を可愛く染めてふるりと肩を震わせるから、もっといじめたくなってその唇を追い掛けて再度キスをした。柔らかい。マシュマロなんかよりも柔らかくて小さくて、ずっとくっ付けていたいと思える可愛い私の唇。
それをつい最近まで違う男が独占していたなんて思うと本当に憎たらしいんだけど、今はその男をいがめるよりも名前の唇に私を上書きしたい。名前はつい最近まで、名前の優しい性格に胡坐をかいて何人もの女と浮気をしていた男と付き合っていた。名前から何度もその男の相談を受けたわ。彼が最近冷たいから自分が何かしてしまったのかとか、彼が最近つまらなさそうにしているから何処かオススメのデートスポットはあるか、彼の誕生日にプレゼント以外に何か喜ぶことをしてあげたいとか。名前は典型的な、愛し、尽くす、古き良きオンナノコだった。私は名前のそんなところが友達として好きだった。彼のために何でもしてあげようと思う姿勢、彼のために常に可愛くあろうと思う姿勢、彼のために自分は何をしてあげられるだろうと思える姿勢。私は名前のそんなところが大好きだったのに、その男はそんな名前の性格にふんぞり返っていた。許せなかった。私がどこにお嫁に出しても恥ずかしくないと思える最高の女を、そいつはずたずたに傷付けたの。それでも彼を振り向かせたいと涙する名前の泣き顔を私は何度も慰めた。そんな男捨てなさい、こっちから見切りをつけないさい、何度も言った。何度も名前の涙を拭った。それでも名前はその男を大事にしたいと、濡れた唇で弱々しく言った。
ぞくりとした。
透明な滴を零す白い頬に、震える赤い唇に、まあるい輪郭をなぞって零れた涙に。潤んだ瞳で、「玲央」って力なく私の袖を掴む名前に。いけない、と思った。だって名前は私のことを「玲央姉」って呼んで慕ってくれる。友達だって、親友だって。彼をどきりとさせるための勝負下着だって一緒に買いに行った程の仲なのに。私は、勝手に、その垣根を踏み越えたくなった。
キスしたくなった。キスして、その小さな肩を抱いて、ふにゃりと笑う頬に吸い付いて、「私が幸せにしてあげるから、私にしなさい」って。

―言ってしまったのが、つい先日の話なんだけど。
私は名前を愛していたつもりだったのだけど、それと同時に恋もしていたみたい。やぁね、イイ男が好きだったはずなのに。でも仕方ないじゃない。目の前にこんな可愛い女の子がいるのよ?放っておけるワケないじゃない。また変な男に掴まって泣く名前の姿なんて、友達として、私として、絶対に見たくない。だったら、私が名前を幸せにしてあげる。ううん、幸せにしてあげたいの。とびきりの可愛い笑顔を私に見せて、「玲央」って、私を呼んで。


「れ、お…ねぇ…んんっ、」

「これで4回目。」


玲央姉って、名前から呼ばれるのは好きよ。これからもそう呼んで欲しい。だって名前のお姉さんみたいで好きなの。特別な仲みたいで。
でもね名前。私と名前が二人きりの時は、玲央って呼んで欲しいの。友達の時の私達とは違う、特別な関係を私に味あわせてちょうだい。名前は昨日の今日で彼氏が私になって戸惑ったり、節操無しみたいに思われるのが嫌みたいだけど、いいのよ、そんな事。だって私が勝手に名前を好きになってしまったのだもの。名前は何も悪くないわ。無理せず、名前のペースで私を特別の好きになって欲しい。でも少しだけ我儘を許してね。
名前から「玲央」って呼ばれること、ずっと見詰めていた赤い唇にキスすること。この二つだけは、どうしても我慢できないから、今許して欲しいの。


「だって…、いまさら、恥ずかしいよ……」

「なんで?今は私しかいないから、恥ずかしくないわよ。」


小さな手に指を絡めて、少し引き寄せる。その分だけ縮まった距離で、「さぁ、呼んでちょうだい」って囁けば名前がきゅっと目を伏せた。可愛い。恥ずかしいのね。緊張しているのね。これからはそんな表情の名前を私が独占していいのね。たまらないわ。
吸い付くように名前の唇を下から吸い上げ、濡れた赤い唇を何度も啄ばむ。ちゅ、ちゅ、と鳴る音がどきどきするわ。興奮する。絡めた指先から名前が震えているのがわかって、いけない、先走りすぎたかしら、と唇を離せば、蜂蜜みたいにとろりとした目の名前が、私を映した。


「………れ、ぉ…。」


微かに零れた言葉は、聞き逃すわけがない私の名前で。
名前は口にした途端、顔を真っ赤にして泣きだしそうに私の肩に額を埋めた。
やだ………もう………。


「名前、可愛すぎよ……。」


―私の可愛いカノジョを紹介するわ。
名前って言って、この私が骨抜きになっちゃうくらい、可愛い可愛いカノジョなの。

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