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***


目覚めた時のベッドというのはまさに自分を優しく包む甘美なもの。カーテンから漏れる朝日にラビは目を開けたが、ここから出れば冷たい空気が自分を待っているものだからラビはそこから抜け出す事ができなかった。


「うぉー布団から出たくねぇー。」

「ラビ、いい加減起きるんだ。」

「うぉ〜〜〜…。」


マリが容赦なくカーテンを開ければ眩しい光がラビの左眼を襲う。ぎゅっ、と目を瞑ると向こう側からドアの開く音がし、長い髪を一本に結った神田が出てきた。彼が寝るはずだったベッドは真っ白なシーツをピンと張り、帰ってこない主人を待ちに待って、結局、ベッドメイクが崩れることはなかった。


「あらあら、朝帰りデスカ神田さん。」


そう口端を上げて言うと神田は黙ってこちらを見つめた後、カツカツと歩み寄りラビを守っている布団を勢いよく剥がした。


「っぎゃーーーー!!!!寒っ!!寒いから!!」

「うるせぇ!早く起きろ!!」


急激に自分の体が冷えていき、ラビはベッドの上で肉団子のようになって叫び、隣の部屋からチャームポイントの団子を乗せたナマエが慌てて入ってきた。


「ど、どうしたの!?」

「ナマエ!助けて!!ユウが俺の布団をオイハギ…!!」

「阿呆な事言わずに早く起きろ!!」



***



『皆元気そうで何よりだよ。』


宿から借りた電話機を専用の線で繋ぎ、ナマエの白いゴーレムからコムイの声が聞こえた。机の上に置いた電話機を囲むようにして、真ん中のベッドにナマエが腰掛け、隣には神田が立っている。ドア側にマリとデイシャが立ち、窓際にラビが体を預けていた。


『ナマエ達から新しい団服は受け取ったかい?』

「あぁ、イノセンスも渡した。」

『そっか。それじゃぁ、これからについて言うね。
マリ、デイシャ、神田君には引き続きティエドール元帥の捜索に就いてもらいます。ナマエとラビには急に出て行ってもらったばかりで申し訳ないけど、護衛の任務に。』


ティエドール部隊の三人はコムイの言葉に頷き、ナマエとラビは目を合わせて首を傾げた。


「護衛?」

「誰を護衛するのさ。」

『僕。』

「は…?…に、兄さんをって……、ちょっと待って!兄さん外に出るの!?」

『うん、出るよ。』


出るって、何を言っているのだろうかこの馬鹿兄は。とナマエは目を見張った。資料室に行ってくるね、と同じトーンで言った兄はこう見えても黒の教団の頭脳とでも言うべき存在で、その価値はエクソシストにも匹敵する。いや、もしかするとそれ以上かもしれない。とりあえず、室長という名を持つコムイは簡単に外で出るような存在ではないのだ。その兄さんが出るという事は…。


「状況は芳しくないって事…?」


ゴーレムから聞こえるペーパーノイズと一緒に兄の困ったような顔が見えた。


『とりあえず、二人は護衛の任務に就いてもらう。ラビは明日、ドイツ行きの便で僕と合流して欲しい。』

「え、ラビだけ?私は?」

『ナマエは新しいエクソシストを本部まで護衛して欲しい。』


その言葉に誰もが顔を上げた。
ナマエは瞬きを数回繰り返し、反芻する。


「新しい…エクソシスト…?」

『うん。アレン君達が出ていた任務でイノセンスとシンクロしたんだって。』

「チッ、あのモヤシまだ生きてんのかよ。」


アレンの名前にあからさまに機嫌を悪くした神田に皆、神田の方を見る。皆の視線が「モヤシ?」と聞き、神田は小さく咳払いをし、


「あの白髪の事だよ、」


と小さく言った。
それに一番早く反応したのはラビだった。


「ぶはっ!何それ!?アレンって奴モヤシなの!?」

「神田っ!何て事言うの!!アレンをモヤシって言うなんて!!」

「あんなのモヤシで十分だ。」

「神田っ!!」


神田の暴言を諌めるようにナマエが神田に声を上げ、知るかとばかりに神田はナマエの叱責の視線を避けた。


『おーい、とりあえずいいかい?
三人は引き続き任務続行。ラビは明日のドイツ行きの便で僕と合流、護衛。ナマエは明日そっちに到着のエクソシストを護衛、イノセンスと一緒に本部まで届ける事。』


いいかい?と聞こえた声に五人の背が伸びる。
「了解」と合わさった声は各々の感情が含まれていた。新たな目的地に笑みを浮かべるもの、まだ見付からぬ師に思いを馳せるもの、それぞれの感情がその短い言葉に表れていた。
そのなかでナマエだけは、強く唇を結んで頷くだけだった。


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