0221(2/3)


自分の好きな、彼女の優しい香りがするマフラーを首に巻いて(背伸びして巻いてくれたナマエは可愛かった)外に出たはいいが目的がない。いや、目的はある。ナマエが喜んでくれそうな、誕生日プレゼントを探す。しかしそれが漠然としすぎて何処から回っていいのかわからず、神田はただ街を歩いていた。並ぶウィンドウには流行りのドレスやアクセサリー、女の好きそうな甘ったるい香水。どれも所狭しと並んではあるがどれも目に留まらない。自分がそういう類のものに興味がないというものもあるが、ナマエにどれを与えればプレゼントになるのかがわからなかった。


(そもそも、あいつプレゼントとかそういうモノに執着するタイプじゃないし。)


それに誕生日だから、とモノをあげればいいというものでもない。それがわかっているから決めかねてもいるし、何を買ってあげればいいのかもわからない。でもしかし。


(あげたら…、喜ぶだろう、な。)


誕生日だから、いや誕生日じゃなくとも、人からもらったものはすごく大事にしてくれそうだ(マリから以前買ってもらったという本も、すごく大事にしていた)。そのナマエに自分が誕生日プレゼントをあげたら、絶対喜んでくれるだろう。いつもみたいにふわふわした笑顔に、ありがとう、と嬉しそうにするその顔が見たい、と思ってしまう自分に神田は一人気恥ずかしくなってマフラーで口元を隠した。恥ずかしい、だけど喜ばしてやりたい。ナマエからありがとうと言われたい。祝って、あげたい。
何をあげたら彼女は喜ぶだろうか。きっと何をあげても喜んでくれるだろう。しかし何をあげても喜んでくれるからこそ、何を渡せばいいのかわからない。ありきたりなものじゃつまらない。最初に頭に浮かんだのはリボンなのだが、それは神田の中で違う気がした。渡そうと思えばいつでも渡せてしまう。今日は彼女の一年に一度の誕生日なのだから。(神田がここまで頭が回るのは、きっと彼女だけだ。)



店を流し見ながら何をあげたらいいか考えていたらいつの間にか商店街を一通り回りきってしまった。なかなかこれだと思うものもなく、出てきてしまった入口に神田は小さく息を吐く。結局何も見つけてあげられずに一周した商店街のすぐ横にある公園にふらり立ち寄り、青い芝生に腰を下ろす。子供が鳩を追いかけ蹴散らす様子をぼおっと見ながら、神田はどうするかと考えていた。
このままではきっと何も買わずにパーティーが始まる。ナマエは『リナリーのパーティー』と言っていたが、どこまでも片割れ主義な彼女に一人苦笑した。双子の誕生日に兄のコムイの気合はこれまで以上であろう。きっと何人か科学班も道連れになっているだろうし、食堂のジェリーは率先して協力していそうだ。ラビも、何だかんだ二人にプレゼントを用意してそうだ。きっと、何年も『誰かのため』なんてことしていなかったから、何をすればいいのかわからないのだろう。今更誰かを思うなんて、するとは思わなかったのだ。

(あの日から俺は一人で、ずっとこれからも憎みながら生きて、あの人を探すまで生きていくのだと思っていたから。)

ナマエという存在は自分の中でイレギュラーだったのだ。イレギュラーのくせに、こんなにも大きくなってしまったのだ。誰かを大事に思うなんてこと、もう無いと思っていたのに。ナマエはこんなにも大事で、愛しくて、いっそ閉じ込めてしまいたい程に大切で。ずっと自分の部屋に閉じ込めて、守ってやりたいのだ。そんな彼女に、自分は今日、何をしてあげることができるだろう。見上げたこの空にも、晒したくない程の大切な女の子に。



***


「お誕生日おめでとう、リナリー!」

「ありがとう…!ナマエ!!開けていい?」

「もちろん!」


兄が作ったという鼓膜が破れるではないだろうか巨大クラッカー(探索部隊三人で紐を引くぐらい巨大だった)で始まったバースデーパーティーは大いに盛り上がっていた。バースデーパーティーという名目で団員達がハメを外すのは毎年のことで、酒だ食い物だと盛り上がる会場にリナリーはいつもの事だと笑っていた。初参加なナマエは最初こそ戸惑ったが、楽しそうにしている団員達に次第に表情がほぐれていた。リナリー曰く、パーティーと一緒に団員達のお疲れ様会でもあるそうだ。だからこそ主役がリナリーでもお酒は振舞われるし、料理だってケーキと一緒に肉料理が大量に作られる。それが全て兄の配慮だというからナマエの緊張はほぐれた。


「わぁ…!」

「これね、初めて見付けた時絶対リナリーに似合うって思ったの。」

「綺麗な色…、ピアス?」

「うん。」


ナマエがリナリーにプレゼントした小箱には、二人の髪色によく似たダークエメラルドのピアスが入っていた。シンプルな丸玉だが、ダークエメラルドの色が上品で綺麗だった。髪をツインテールに纏めているから、きっと似合う。やっとプレゼントを渡すことができたナマエの嬉しそうな顔以上にリナリーも嬉しそうにしていた。


「ありがとう!大事にするわ!」

「うん、嬉しい。」


リナリーの笑顔にプレゼントして本当に良かったとナマエも笑えば、リナリーがそわそわとしだして、プレゼントした小箱を胸に「ちょっと待ってて!」と会場である食堂を出て数分、戻ってきたと思えばたくさんの花束をナマエの前に持ってきた。


「はい!ナマエにも誕生日プレゼント!!」

「わぁ…!すごい、これ…胡蝶蘭?」


たくさんの花束は蝶が羽を広げたような花弁の胡蝶蘭だった。薄い桃色が色付く純白の花びらは本当に蝶が舞っているような形をしていて綺麗だった。胡蝶蘭の花束の中にはメッセージカードが添えられ、『お誕生日おめでとう、I love you』と書かれていて、自分とまったく同じ内容に込み上げる嬉しさがあった。


「綺麗…!ありがとうリナリー。」

「『ちょっと早い』けど、ナマエが素敵なプレゼントしてくれたから、我慢できなくて…。」

「私も。プレゼント買った時からずっとリナに渡したくて仕方なかったんだよ。」


一緒だね、と言えばリナリーも嬉しそうに笑った。


「この胡蝶蘭、リナリーみたい。とても綺麗。」

「このピアスだって、ナマエの髪色と一緒でとっても可愛い。」

「コムイー、あの二人おんなじ顔で何言い合ってんさー。」

「ラビィッ!!リナリーとナマエの可愛さが個々にわからないっていうのかい!?」

「いや…個々に区別はできるけど、あいつらおんなじ顔じゃん。それを綺麗とか可愛いとか…」

「僕がおめめの手術してあげよう!」

「断る!!」


両手に何処からか手術道具のようなメカのような何かを広げたコムイにラビが脱兎のごとく食堂を出て行き、コムイもそれを追い掛けた。その二人を見送ってリナリーとナマエは顔を見合せてまた笑った。


「そう言えばナマエ、神田は?」

「神田?…出掛けるって言って戻ってきてないと、思う…。」

「そうなの?」

「うん…。…ちょっと、地下見て来ようかな。」

「えぇー、」


せっかく久々の二人なのに、といつも神田にナマエを取られてしまうリナリーはぷうと頬を膨らましたが、そんなリナリーにナマエは苦笑して手を振った。


「大丈夫、すぐ戻るわ。兄さんからのプレゼントお披露目もまだだし。神田が戻ってなければすぐ戻るし、戻ってれば連れて来るよ。」


それに、せっかくリナリーからもらった綺麗な胡蝶蘭を早く活けてあげたいから、と胡蝶蘭を持って続ければリナリーの膨れた頬はむううぅとしぼんだ。


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