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重い。体が。


「おっはよーナマエ!」


白亜の天井で目が覚めた。おかしい。自分の記憶が正しければカッシュと汽車に乗り継いで長旅だから寝れる内に寝ておこうとなって目を閉じたはずなのだが。そう、眠ろうと目を閉じたはずだ。そしたら瞼裏がやけに眩しくなったから目を開けたら、白亜の天井とロードの顔がそこにあった。ロードの、嬉しそうな顔が。


「どう…して…」

「ねーナマエ、頭いい?」

「は?」

「宿題手伝ってよー。千年公に宿題溜めてるのバレちゃってー。ティッキーは使い物にならないしぃー。」


まるで妹よろしく横になっているナマエの腹に圧し掛かるようにロードがいて、正直重い。周りを見渡せばいつかロードと出会った夢とまったく同じ場所、同じ格好。夢、なのか…。あの悪夢の続きなのか、それともまたあの異空間…。


「夢じゃないけど、夢だよ、ナマエ。」

「…………。」

「っていうかナマエ痩せすぎじゃなーい?リナリーだってもっとあったはずだけど。」

「ならどいてくれるかしら。」

「あはーごめんねー」


ロードが退いて体を起こす。窓から吹いてくる風がナマエの髪を撫でた。心地いい。まっさらな青空の先にコバルトブルーの海が広がっている。ああ、そうか。私はまた、ロードの呼びだされたのか。


「……宿題のために…?」

「そー。手伝って?」


ロードもナマエと同じく前回の白いワンピースを着ていて、まるでお揃いのようで複雑な気分になる。まるで、というよりもお揃いそのものなのだが。ロードに手を引かれて腕を引っ掻かれたのを思い出し鳥肌が立ったがそんな事はなかったとばかりにロードはナマエの腕をぐいぐいと引っ張りベッドのすぐそこにある机と椅子に座らせた。机に広がるのは教科書とノート、教材。ざっと見れてもわかる。紛うことなき、宿題である。無理矢理ペンを持たされロードと同じ机に座るなんとも珍妙な光景が数秒で出来てしまった。いや、珍妙と思うのは#ナマエだけであって傍から見れば同じワンピースを着た姉妹か何かが机に向かっているにしか見えない。


「って、どうして私が宿題手伝わなきゃならないのよっ」

「だってだってだってー!千年公怒ると怖い!」

「知らないわよ!私は少しでも寝なきゃならないの!」

「ダイジョーブだよー。肉体はちゃんと寝れてるから。」

「精神は寝てないってことじゃない!」


促されて思わず数式を解こうとして立ち上がる。こんな状況おかしい以外の何物でもない。大事な時に再びロードに呼び出され宿題を手伝え?私達は敵同士なはずだが!!


「私は少しでも休みたいの、帰らせてもらうわ。」

「アレン助けに行きたいからー?」

「……そうよ。」


どうして、と口に出す前に、以前ロードが自分の心など手に取るようにわかると言っていたのを思い出した。何処まで知られているのか。いや、何処まで遊ばされているのか。彼女からすれば自分など、手の中で転がり続けるただの玩具でしかない。


「ねーナマエ。」


彼女は自分を、どうしたいのか。


「大事なモノは、ちゃぁんと鍵をかけとかなきゃ、ねぇ?」

「…どういう意味?」

「いずれわかるよ。ナマエは、それになるんだから。」


含みを持たせた言葉に眉を寄せてみるも返ってくるのは深くなる笑みだけだ。幼くも、残酷に見える笑みだ。無邪気、悪戯、どちらの言葉を当てはめてもそれは彼女の笑みを形容する言葉ではない。


「あぁ、またね、ナマエ。」

「待ってロード!どういう意味――」




何の前触れも無く呼び出されたと思えば、同じく前触れなく呼び戻された。


「あ……っ」


いや、引き戻された感覚の方が強い。ロードに伸ばしかけた手は何かの力によって引っ張られ、今はその先はイビキをかき始めたカッシュへと向いている。そうだ、寝ていたのだった。がたがたと揺れる汽車の中、ナマエは小さく息を吐いた。
ロードは「またね」と言っていた。言い方もまるでまた近い内に呼び付けるような。出来れば呼ばれたくはない。しかし今の自分に拒否権など存在しないし、ほんの少しだけ自分より自分を知っていそうなロードの話をもっと聞いてみたいという興味もある。彼女は自分より自分が何なのか知っている。そして、手の平の上で遊ばせる何かを、自分が持っている…?


「大切なものに、……それに、なる…」


しかし、かけられた言葉はどれも不透明だった。


−53終−


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