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ナマエが本部から居なくなった。
他のエクソシスト全てが出ている状況でホームに待機させている時点でいつかはこうなるとは思っていた。しかしこんな状況下で出ていかなくてもいいではないかとコムイは痛むこめかみを抑えた。


(…違う、こんな状況下だから、か…。)


考えがあるようで、実はその裏結構向こう見ずに突っ込むところは自分そっくりだ。自然と零れる溜息は司令室の空気と静かに溶け合った。


「室長…!」


司令室の向こうから数人の足音が聞こえてきて、思い浮かべた人物達とまったく一緒のことに苦笑する。リーバー、ジョニー、タップ。どれもナマエによくしてくれていた人物達だ。


「ジョニーがナマエに作っていた新しい団服が、持ちだされてます。」

「か、完成したばっかで、しかもナマエはまだ待機だから見せてもなかったんスけど…!」


そんな所まで、抜かりない。らしいと言えばそうだけれども。


「室長、ゴーレムを使って逆探知とかできないんすか?」


ニット帽の奥からじんわりと汗を流すタップに本部内を随分走り回ってくれたのがわかる。ふくよかな体系ではあるが、科学班だけあってあちこち動くのに躊躇いはない。コムイは机に肘をついて、まるで過ぎた事だとばかりにあっちを向いていた。


「無駄だよー。ナマエのゴーレムは本部の支給品じゃない。ましてやアジア支部のバクちゃんとジジが共同で作ったものらしいからその他余計な機能も追加されてるし。」

「あれジジが作ったんすか!?」


上と喧嘩して本部から支部に飛ばされたジジの記憶は新しい。リーバーは驚いたような呆れたような声をあげ、すぐにナマエの傍をふよふよと飛んでいた白いゴーレムを思い浮かべて顔を顰める。確かに黒が基準のゴーレムに対し、白だけに異色ではあったがまさか開発したのがジジとなるとあのゴーレムは相当な曲者である。逆探知をされないようにする機能なんて、オマケ程度に付いている違いない。


「ナマエ、大丈夫なんですか…?待機って命令でしたよね…。」


命令違反を心配しているのか、それともナマエの体を心配しているのか、仲間思いのジョニーは複雑そうな顔をコムイに向けたが、コムイは至って普通だった。いや、むしろどこかわかりきっていうようであった。


「問題ないよ。こうなることはだいたい予想してたし………、どうせアレン君の新しい団服のスペアも無くなってるでしょ?」

「ええっと…はい…」

「さっきの会話聞かれてたんだと思うよ。ナマエはきっと、というかほぼ間違いなく中国へアレン君を助けに行った。」

「室長、それは…」

「咎落ちについて一番よく知ってるのは、ナマエだから…。」


その先の言葉の意味を理解できるのはリーバーしかいなかったが、司令室に再び重い沈黙が流れた。コムイはそれを振り払うように椅子から腰を上げ眼鏡をかけ直し、にっこりと笑ってみせた。


「大丈夫。それについて既に手は打ってるよ、なんたって僕はナマエのお兄ちゃんだからね。」



***



乗り継いだ汽車に腰掛けようと上着を脱いだナマエはコートの胸ポケットに何か入っている事に気が付いた。上着を受け取ろうとしたカッシュに渡す前にポケットに手を入れ、触れた感触を指先で掴んだ。


「どうかしたんですか?」

「うん………。」


指先に挟んだのは小さいメモ。固い椅子に腰掛け小さく折りたたまれたメモを広げば、そこには見慣れた文字と一文。それを見てナマエは思いっきり顔を顰めてメモをカッシュに投げた。カッシュは投げられた紙切れを慌てて落とす前に拾い上げ、ナマエの顔を見ながらその書かれている文字を追った。そして彼女の表情を理解する。


「は、ははっ…、これは一本取られましたね。」

「一本どころじゃないわ。まったく、兄さん意地悪だ…。」

「でも…、いいお兄さんじゃないっすか。」


本当は彼女に「嬉しいのでしょう?」と言いたかったのは飲み込んだ。言ったらきっと更に顔を顰めるだろうから。


「…知ってます。」


ムスッと尖った唇に、歳相応な彼女を見れた気がしてカッシュは笑った。その手元の紙には、彼女の兄からの大切な家族に向けての言葉だった。


『必ずアジア支部に寄って連絡すること』


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