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まるで、神の雷(いかずち)のようだ。


(いや、裁きを受けているのだから雷のようだ、ではない。これは、正真正銘の神の雷なのだ。)


スーマンは、あれほど村を際限なしに破壊し続けていた体が崩れていくのを感じながらもゆっくりと空を仰いだ。空から降る光の柱が自分を包んでいる。ああ、壊れるのだ。やっと終わるのだ、この破壊し続けた人生が。
やっと全てが終わることになのか、それとも何か思い残したことがあるのか、スーマンの目には涙が流れていた。赤い血の涙ではない、純粋な、透明の滴。誰に向けた涙なのだろうか、自分に?自分以外の何かに?それは、何だったのだろうか。何か、大切なものに会いたくて、別の大切なものを壊した。そう、壊した。自分はあの日から壊し続ける人生を歩んでいる。…あの日?どの日だろう。大切な日だった気がする。いや、それも違うな。大切だったのはその日ではない。そこにいた、自分の大切な、


「スーマン!!」


ふと、自分の下から(そう思うのもおかしな話だが)懐かしいと感じる自分の名前が聞こえた。その名前を呼んでくれたものは崩れていくこの体をゼハゼハと息を上げてよじ登って来る一人の少年で、ぼろぼろではあるがその少年が纏う黒服は見覚えがあった。あれは自分も着たことがある。いや、ずっと着ていた。着なくてはいけなかった。着たくなどなかったのだが、あれは自分を大切なものから引き裂かせた大事なものだった。


「エクソ…シスト」

「アレンていいます」


ぼろぼろの黒服を纏う少年はこんな状況にそぐわない愛嬌のある笑顔を見せた。中性的なその声には聞き覚えがあった。破壊し続けた記憶の中、ずっと自分を呼んでくれていた声だ。「がんばって」「必ず助ける」「死んじゃ駄目だ」と、ずっと呼びかけてくれた声だ。そうか、キミだったのか。自分をずっと励ましてくれていたのは。それを『聞く』ことはできなかったが、ずっと聞こえていた。力強くも、優しい声だった。
そんな姿になってまでも、自分を見捨ててくれなかったのか。もういい、ありがとう。もういいのだよ、アレン・ウォーカー。…そうか、アレン・ウォーカー。キミだったんだな、オレと一緒の寄生型の、白髪のエクソシスト。


「命が…尽きたみたいだ。」


名前だけは聞いていた。寄生型のエクソシストだと。まだ15ばかりの子供だと。なんて無慈悲なことだと思った。神は、15の子供にも戦場に立たせるのかと。また若いエクソシストが、死ぬのか。哀れだと思った。


「オレは死ぬ…きっと、この化物の姿も…消えるだろう。」


この少年も、自分と同じで引き離されたりとかしたのだろうか。大事な何かと、引き離されたのだろうか。


「すまない…」


そう、自分の大切な大切な、もの。


「家族に会いたかったんだ。」


大切な家族に会いたくて、大切な仲間を裏切った。


「申し訳ない。」


これは、当然の裁き。
ユダは裁かれるべきなのだ。


「スーマン」


しかし、目の前の少年は何をしようとしているのか左腕のイノセンスを発動させた。発動させたと言っても、そのイノセンスはだいぶ『崩れていた』。それでも少年は、アレンの瞳には強い光が宿っていた。


「僕の左腕であなたと右腕のイノセンスを切り離します。」


同様、理性を失いながらも自分が噛み千切った右手が差し出された。


「その時、あなたをひっぱり出しますが僕の右手は折れてて力が入らない。」


血と、噛み切ったことで赤黒く痛んでいる右手が口元に持ってかれる。そしてアレンは力強く、自分を、スーマンを見詰めた。


「噛んでください。絶対、はなさないで!!」


銀灰色の瞳は透き通るほど綺麗で真っすぐだった。この目が、手が、ずっと自分を励まし続けていくれていたのか。噛み切っても、骨を折っても、まだ、手を差し伸べてくれるのか、この少年は。


「アレン…ウォーカー…」


にっこりと微笑んだ顔は、まだまだ幼い。


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