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「咎落ちっていうのは…」
震えるリナリーの肩をアレンは抱いた。かたかたと震え、涙を流す彼女は可哀想なくらい怯えていたが、彼女にあげられる言葉はなかった。いや、あげられる余裕がない。リナリーがぽつりぽつり言う言葉の全てが信じられなくて、苦しくて。
「イノセンスとのシンクロ率が0以下の人間…『不適合者』が無理にイノセンスとシンクロしようとすると起こるものなの…。」
そんな事があり得るのか。あり得て良いのだろうか。それだけが頭にあり、リナリーの言葉を受け止めつつ、信じられないと頭の中で否定した。
「今はもう禁止…されてるけど…教団で行われていた実験を見たことがあるの。エクソシストをつくる実験…。」
だからあの姿は知ってる。と小さく言った彼女の肩を抱きながら、『咎落ち』の姿となったスーマンを見た。止むことのない容赦ないアクマの攻撃を一方的に受けていてどうすればいいのかわからなかった。アクマを破壊しようにもあの数に二人では対応しきれない。助けようにもあの体をどうすればいいのかわからない。アレンはどうすることもなく、ただアクマにやられているスーマンを見つめていたその時、スーマンがアクマの攻撃を振り払うように、無い腕と首の先から白い光を腕のように広げてその巨大な体を回転させた。
「!」
十字架のように光る凄まじい衝撃だった。
スーマンが放った光はアクマの大群を一瞬で消し去り、山をも削り、大地を焼け野原にした。その余波は二人が抱き締めあっていないと間違いなく吹き飛ばされていただろう威力だった。
「なんて破壊力だ…!!」
ビリビリと襲う凄まじいエネルギー波の余波にアレンは焼け野原に浮かぶスーマンを見つめた。
「あの数のアクマを一瞬で消し去った………!!」
しかしスーマンの凄まじいエネルギー波は一発だけで終わらなく、残りのアクマ、また集まってきたアクマを特に狙いを定めずに乱射し始めた。乱射された衝撃波は予期せぬ場所へ場所へと乱れ打たれ、二人すぐ脇の岩を砕きアレンはリナリーの体を抱き締める。砕け散った岩々がリナリーを庇うように抱き締めたアレンの背中を容赦なく当たってきた。
(見境いなしに破壊を始めているこのままじゃ…!!)
いつこちらにあのエネルギー波が来てもおかしくない。アレンは常闇の記憶に力をなくしたリナリーの手を引いて無理矢理ながらも立たせる。ここで避難せねば二人ともあのエネルギー波にやられて先程のアクマの大群のように消え去ってしまう。ふらりと立ち上がったリナリーを支えると、腕にリナリーの小さな手が置かれた。虚ろながらもどこか切羽詰まったようなリナリーの瞳から涙が止めどなく溢れている。そして、
「…助けなきゃ…。」
真っ直ぐと見つめられた目に、スーマン以外の何かがそこにある、と感じた。
「スーマンを助けなきゃ。」
自分の腕を掴むリナリーの指先が痛い、と正直思った。しかし見つめられる目に何も言えなくなってしまう。支えてもずるりと落ちてしまうリナリーの足はか細く震えていて、軸を失っている。
「教団で見たあの実験のことをどれだけヘブラスカに聞いても何も話してくれなかった。」
一方、立とうとしているのに言うことを聞いてくれない自分の足に、リナリーはただアレンにしがみつくしかなかった。脳裏にこちらに向かって手を振るあの子の姿が焼き付いて、それがナマエに向かって振られた手だとわかると立っていられなくて。
「咎落ちになったあの子がどうなったのか。私は知らない…。」
忘れてはいけないあの光景は幼いながらも禁忌というのがわかった。あの時の私は、白い団服の男が言っていた成功例が誰とは理解できなかったが、いつだったか私は唐突に理解したのだ。
あの男が言っていた成功例は、
「何も知らないの…。」
私の片割れ。
「そんな実験…、どうして…。」
――何を言ってる。成功例が一人いる。
「成功例が…、いたから…。」
――発動限界15秒じゃ成功例と言えんだろう。あれはこの実験を続けるための繋ぎのようなものだ。
「成功…?そんな、無理にシンクロさせてイノセンスとシンクロするわけが…!」
「したのよ…、」
してしまったのだ、
彼女が…、
私の大切な人が、
私のせいで。
ただ、私の双子というだけで…、
「……ナマエが。」
−48終−
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