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大きい。とにかく巨大だ。
山二つ分、いや三つ分かもしれない。


二人が見たそれはそれほど大きかった。宙に浮いているそれは男の上半身を裸にしたよう形をしていて、真っ白という言葉が似合う程白かった。胴から下はまるで木の根のような線が生え、両腕と首からの先がない。しかし首元には自分達の象徴である十字架があり、その途切れた首の上には、天使の輪のような輪があった。そして、心臓のあたりに…、


「いっけぇ!!!」

「ブッ殺せやぁ!!」


「!!」


二人が白いそれの胸に目を凝らした時だった。アクマの大群がいっせいに飛び掛かるようにスピードをあげてこちらに向かってきた。しかもまたもやこちらに向かって来るだけで自分達は見えていないように通り過ぎる。しかし二人の手を離させるには十分な勢いと大群でアレンとリナリーは耐えきれず手を離してしまった。


「リナリー!!!」


遠ざかるアレンの声にリナリーはすぐさまイノセンスに意識を集中させた。


(アレンくんっ…!)


リナリーの黒い靴─ダークブーツ─が空気の波動に確かな地盤を見つけた。


(イノセンス第2解放─“繋累”─)


音響の踏技、音枷


白いそれの叫ぶ咆哮がリナリーのダークブーツを強く押し出そうとして見えない地盤を作った。音枷は音により発生する空気の波動を地盤にして彼女に速さをもたらす。リナリーは膝をバネのように活かし限界まで音の地盤に乗る。そして音の、空気の波動を蹴るようにして空中を飛ぶように駆け抜けるその速度は、音速。

微かに見えたアレンの姿を見つけてリナリーはその手を取る。次に瞬きをした時はアレンの手を引いて地に足を着けた時だった。何が何だかわからなくて、しかし取り合えずリナリーのおかげで助かったらしいアレンは驚いていいのか笑っていいのかわからなかった。


「は…、速いねリナリー。」


助けてくれてありがとう、とか言うべきだったのかもしれないがあまりにも一瞬の出来事であったためそれが出てこなかった。やっとリナリーと合流らしい合流ができた、とアレンが息を吐いたその時、リナリーの速さに忘れかけていた白い物が猛り叫んだ。現実に戻されたアレン達は視線をまたあれに戻す。


「……!!」


微かに青白く光るあれはなんと、待っていましたとばかりにアクマの大群に四方を囲まれ一斉攻撃を受けていた。アクマからの攻撃に白いのは怯んだように体を横たわらせていく。予想外の光景にアレンは目を大きく見開いた。


「攻撃されている………!?まさかアクマ達はあの白いモノを狙って来たのか…………!?」


とうとう白いのがアクマの攻撃に耐えきれず山へと倒れた。巨大なそれが山へ倒れたことにより土砂が舞い、がらがらと山崩れが起きる。そして、ゆっくりと体を横たわらせた白いそれの胸元が、リナリーの目にはっきりと見えた。


「あれは…っ」


土埃とアクマの砲弾の煙が晴れていく。見えたのは、人だった。白い巨大な化け物の胸元に、まるで縛られた罪人のように体を覗かせた男の姿があった。目から血の涙を流し、口からも血を流す男は髪もなく、表情は悲しみ苦しみ怨みが混ざったような面持ちで誰だかわからなかった。しかし、幼いころから教団にいたリナリーはそれが誰だか、はっきりとわかってしまった。あれは、


「スーマン…?」


見覚えのある顔立ち、彼だ。アレンと同じ寄生型のスーマン・ダークだ。でもなぜ。彼はなぜあんな姿に?それに、あの白いのはなんだ。あの、白いのは…、


途端、
リナリーの頭に声が過ぎった。



『マタ咎落チダ』


それは、


「あ…っ」


彼女の記憶を掘り起こさせた。




もう、骨と皮のような姿で性別がわからないあの子。

頬は痩せこけ、目の下にくっきりと影を落とし、

どこか目が虚ろで自分の死に際をわかっていた。

見知らぬ私に小さく手を振り、その後イノセンスを入れられた。

ナマエもあんな実験を───────



見知らぬ私に手を振ったあの子、


(どうして私に手を振ったのかずっとわからなかった)


ナマエもあの実験を…


(咎落ち…)


骨のような指先をひらひらと振って私に、

まるでバイバイって私に、

なんで、私に、



───違う。あの子は、


「!!」


悲鳴に近い叫びをリナリーは上げて膝を落とした。


「リナリー!?」


覚えている。

忘れるわけがない。

私はあの光景を忘れてはいけない。


なぜなら、



「ナマエ…っ!あっ…!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!!」

「どうしたんですリナリー!?」



もう、骨と皮のような姿で性別がわからないあの子。

頬は痩せこけ、目の下にくっきりと影を落とし、

どこか目が虚ろで自分の死に際をわかっていた。

見知らぬ私に小さく手を振り、その後イノセンスを入れられた。

ナマエもあんな実験を───────違う。



見知らぬ私に手を振ったあの子、

(どうして私に手を振ったの?)



─────違う…!違う!あの子はっ…!!



「咎落ち…」




あの子は私に手を振ったんじゃない。



あの子は、


同じ被験体のナマエを…


私をナマエと見間違えて、



「使徒の…なり…そこない」




ナマエに手を振っていたんだ。




−47終−


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