へいちょとようじょ(9/15)
ミケに肩車をしてもらい、目を輝かせているところを見ると、普通の子供となんら変わりはない。そんな子供の侵入を、自分は何故許したのか、とリヴァイは腕を組みながらその様子を眺めていた。
見た目も中身も普通の子供。それなのに、侵入した気配もなく、ただそこに居た。壁外からやってきた?あの壁をどうやって越えた。それに、兵舎内だって誰にも見付からず侵入することは難しい。子供なら尚更だ。だいたい、ユリアはそこに居た時、確かに寝ていた。
一体コイツは何故現れ、何をしにここにいるのか…と深く考えるには、少女はあまりにも幼すぎる。
「ミケ、もうその辺にしとけ。」
「だそうだ、ユリア。」
「は、はいっ、あの、ありがとう、ございますっ」
肩からゆっくりと下ろしてもらうと、ユリアはミケにぺこりと小さな頭を下げる。
幼い、わりにはしっかりし過ぎている面もある。言葉遣いもそうだが、そういう礼も忘れない。何より、あまりはしゃがない。見る限り、肩車はすごく嬉しそうにしていたが、声をあげて喜ぶということはしなかった。そして何より、昨夜泣いてから愚図ったりしていない。
―この歳くらいのガキなら、もっとびーびー泣いてもいいんじゃないのか?
「…楽しかったか。」
「はい…!あの、は、はじめて、でした…。」
広がったスカートの裾を整えるユリアに聞くと、大きく頷かれた。そして、どこか恥ずかしそうに、でも嬉しそうに爪先をもじもじとさせるユリアにミケが首を傾げた。ユリアと視線を合わせるようにしゃがむが、やはり少し目線が上になってしまう。
「親にやってもらったことはないのか?肩車。」
「かたぐるま?」
「さっきのだ。」
「あ、はい。おとうさんと、おかあさんは、ずっとまえにさよならをしました、ので。」
まるで、今日は天気がいいですね。と言わんばかりのトーンでユリアが言い、思わずリヴァイとミケは顔を見合わせた。
「おい、どういうことだ。親は死んだのか?」
「しんでない、です。ちゃんといきてるとおもいます。」
「思う…?」
「おとうさんとおかあさんのこと、きくとおこられちゃう、から、あまりきけない、です。」
一度怒られた経験があるのか、ユリアの顔が暗くなっていく。
「わたしは『預言』によまれたから、ずっと教会のなかでくらさなきゃいけないって。いつも、モースが…。」
「…『スコア』?」
リヴァイとミケ、どちらともなく、また聞き慣れない言葉に聞き返す。するとユリアは驚いたように目を丸くした。
「『預言』、しらないの…?あ、ですか?」
「スコアなんて聞いたこともねぇ。なんだそれは。」
「『預言』は、『預言』。星の記憶…。」
頭の中で教科書を引っ張り出して言うようにユリアは口にし、まるでそんなことも知らないのかという目で二人を見上げていた。
「つまり、そのスコアとやらにお前が読まれたから親と別れたということか。」
ユリアが重く頷く。
「わたしが、ユリアの生まれ変わりだから……」
まるで他人事のように言うユリアに、リヴァイの脳裏に一度だけ、自分の前で『なまえ』と名乗ったユリアが過る。
どういうことだ、と続きを促すも、それだけ呟いてユリアは口を閉ざしてしまった。