へいちょとようじょ(6/15)
「教会から出たことがない?」
一通り泣き終わったユリアに食べ物を突っ込ませ、宣言通りクソして無理矢理寝かしつけ、リヴァイは再度エルヴィンの部屋へと行った。そしてそれまでに聞いた新たな単語と、ユリアの不思議な境遇を話した。
「ああ。あと、教会ん中にある自分の部屋と図書室と聖堂くらいしか行動範囲は許されていないようだ。」
あと、エベノスの部屋。
と付け加えるのは飲み込んだ。これは、まだいいだろう。ユリアからエベノスが何なのか聞いていない。それが部屋の名前なのか、誰かの名前なのか、物の名前なのか。聞いた後からでもいいとリヴァイは判断した。
「では、ユリアが住んでいるのは、ダアトという少なくとも街規模の土地の中の教会というわけか。」
そして、とエルヴィンからハンジが続ける。
「その教会がローレライ教団という宗教組織で、ダアトはそれを元に創られた宗教自治区。」
言って、三人は信じられないというよりも、想像できない、という苦しい顔を浮かべた。
この壁内の中にそのような大きな集団組織があれば嫌でも目につく。先の混乱の後で創られた組織だとしても、だ。では我々でも知り得ないその組織は何処にあるのか、と考えると、やはり壁の向こうだとしか考えられない。
あの小さな少女が、巨人がのさばり蔓延る壁外からやってきたとは何とも考えにくい話だが、どう考えてもその結論に辿り着いてしまう。
「ユリアが嘘をついている、にしては話が出来過ぎてるんだよなぁ…。子供が話を作るにしても、もっと簡単なお話にするよね?まさか宗教自治区とか…。」
「あの子の様子を見ても、嘘をついているようには見えない。故郷を思って泣いていたのだろう?」
「まぁな。」
故郷、というよりも、『エベノス』に泣いていたような気がしなくもないが。
「ユリアが着ていた服にも興味あるな。見た事ないやつだった。白くて、綺麗だったね。」
「ああ、教会で暮らしていたと聞くと、あれは法衣か何かなのだろうな。」
「敬虔な信者ってこと?」
「寝る前にお祈りなんかしてなかったぞ。」
「信仰の形は人それぞれだよ、リヴァイ。…でも、教会から出たことないってなんか気になるなぁ…。」
「仮に、彼女の言う教会の範囲がこの壁内のように広範囲だとしても…、自分の部屋や図書室くらいしか行動が規制されているというのも…。」
ぐるっと回って帰ってきた結論に、ハンジは肩をすくめた。
「結局、ユリアは何処から来たんだろうね。」
これ以上話し合っても、情報は少ないし、どれも理解し難いものばかり。当の本人も寝かせてしまったし、話はこれで終わりだとエルヴィンが立ち上がった。
「とにかく、なるべく彼女から出来うる限りの情報を得よう。上に説明するのはそれからだ。リヴァイ、改めてユリアを頼む。」
「面倒事押し付けてんじゃねぇよ。」
「いやぁ、なかなか適任だと思うけどね。」
そう楽しそうに言ったハンジを、リヴァイは睨んでから部屋を出た。