へいちょとようじょ(5/15)

壁外からやってきた(仮)少女ユリアの話はハンジのおかげで瞬く間に調査兵団内部で話題になった。壁外からやってきた(仮)、というワードだけでも十分目立つというのに、少女の纏う法衣が真っ白なものだから、エルヴィンの部屋からリヴァイの部屋まで少し歩くだけでそれがすぐ噂の少女だというのがわかる。
そして、その面倒をあのリヴァイ兵士長が見るということになった、というのも。


「おいユリア。」

「はい…?」


先程の込み入った話で少し疲れたのか、ユリアは出会った時よりも小さく見えた。いや、それよりも兵達の刺さる視線を気にしているのか。
まったくハンジの情報も早い。リヴァイより少し早く部屋を出ただけでこの有様だ。きっとアイツの口は一つじゃない、とリヴァイは思った。ひそひそと話す声とちらちらと盗み見られる視線に、リヴァイはユリアの首根っこを掴みあげた。


「ひ、あ…!!」


急に持ち上がった体にユリアが手足をばたつかせたが、それくらいで落とすような鍛え方はしていない。リヴァイはユリアを猫のように持ち上げたままスタスタと室に戻り、部屋に着くなり壁際に置いているソファにそれを投げた。


「うきゃっ」

「ガキは早くクソして寝ろ。」

「く、くそ…?」

「ウンコのことだ。それ以外の面倒は見ない。」

「は、はい、それは、だいじょうぶ…。」


ころん、と転がったユリアは最初の内は目を白黒させていたが、ソファに投げられて居住まいを正すわけでもなく、聞いているのか聞いていないのか、あやふやな目をし出した。
最初の内に感じた、幼子特有の曇り一つもない瞳が、ひどく脆く砕け散ってしまいそうな気がした。


「リバイさん、わたし、きょう、教会にかえれますか?」

「今日は無理だろうな。」

「あしたは…?」

「明日も無理だろう。」

「そのつぎも…?」

「………どうだろうな。」


ユリアの目が、ゆらゆらと揺れていた。そんな目でも、硝子玉のようで綺麗だと、リヴァイはユリアの瞳を見詰めたが、ユリアはソファに顔を埋めた。
仮に、ユリアが本当に壁外からやってきて、知らぬ間に自分の元に居たと考える。だとすると、この幼子には、この状況は少し酷かもしれない。リヴァイは、ソファに身を沈めたユリアの頭に手を置いた。


「ユリア、家に戻りたいか。」

「………………。」


返事は返ってこなかった。
泣いているのだろうか。


「…ダアトってのは、どういう街なんだ。」

「……ローレライ教団の本部がある、まち。」

「大きいのか?」

「たぶん…ごめんなさい、よく…しらない、です。」


埋めた顔から、くぐもった声が返ってきた。


「知らない?テメェ、そこに住んでんだろ。」

「すんでた、けど、教会からでたこと、ないから…。」

「出たことがない?」

「わたし、へやと、としょっしつと、せいどうくらいしか、はいっちゃいけなくて。」


ひくひくと、ユリアの肩が揺れ始めた。
同時に、鼻をすする音が聞こえ始め、リヴァイは小さな頭をゆっくりと撫でた。


「あと、エベノスの、へや。」

「エベノス?」

「エベノス…、エベノス……っ」


そう言ってユリアは、『エベノス』という単語と共に、しくしくと泣き出した。


「ふえ…っ、」


随分と、静かに泣くガキだ。
と思った。

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