へいちょとようじょ(3/15)
ユリアの口から出る、『教会』『ダアト』『ローレライ教団』という馴染みも聞いたこともない単語に、ハンジ・ゾエ分隊長が呼ばれたのはそう時間もいらなかった。
ハンジはエルヴィンの室に入るや否や、ソファに腰掛ける小さな少女に目をきらきらさせ、頭の上に乗せてる眼鏡をかけた。
「おやぁ〜!随分可愛いお客さんだ!」
「こんにちわ、ユリアともうします。」
「あっはは、お人形さんみたいだね。こんにちわ、私はハンジ。よろしくね。」
ここにきて、やっと膝を折って目線を合わせてくれる人物に出会ったことに、ユリアはほっと肩を落とした。
「エルヴィン、用っていうのはこの子の事かい?」
「ああ。気が付いたらリヴァイの部屋に居たそうだ。」
「えぇ?」
ユリアの小さな両手を握ってるんるんと上下に揺らしたハンジの顔がそのまま固まる。どういうことだい?とリヴァイに目をやれば、そのままの意味だと頷かれる。
「ユリア、気が付いたらってどういう意味だい?」
「ええと…、としょしつで、おひるねしてたんです。」
「うん」
「そしたら、あの、リバイさんのおへやに、いた…?」
どうやら少女もハンジ同様状況を理解していないようだ。というよりも、話をする内に理解できなくなってきたと言った方が正しい。ユリアはただ、その言葉の通り図書室でお昼寝をしていただけだ。それがいつの間にか、リヴァイの部屋に居て、『ダアト』を知らない大人達の前に座らされた。
「あの、『ダアト』しりませんか?」
「『ダアト』…?」
「ユリアの生まれ故郷のようだ。知っているかい?」
「いやぁ…あ、でも先の混乱の後でできた村、とかだったら…。」
「ダアトはむらではない、です。」
「村じゃないの?」
「宗教自治区。」
少女の口から凡そ想像もできない言葉がすらっと出て、ハンジ、エルヴィン、リヴァイは各々目を丸くさせた。
「ダアトにローレライ教団の教会があって、そこのとしょしつで、わたしはおひね、してました…。」
最後は消えてしまいそうな声だった。彼女は本当に、お昼寝していただけのようだ。図書室でお昼寝して、そして目が覚めたらここに居た。ダアトでもローレライ教団でもない、ここに。
なんだか話の先が見えない。思わずぞっとするような話に、ハンジは気分が高揚していくのを感じた。
「エルヴィン、地図はあるかい?」
「ああ。」
「ユリア、地図は読める?」
「おおきいの、なら、なんとなく。」
「うん、十分。」
机上から地図を受け取り、ユリアの前で地図を広げてみせた。今は亡きウォールマリアからウォールシーナまでの地図だ。さぁ、少女の指が何処をさす。そうハンジは鼻息が荒くなるのを堪えつつ、少女の顔を窺った。
「………」
そして。
「ここは、どこですか……」
愕然とする少女の表情に、ハンジは飛び上がってしまいそうだった。
嬉しさで。