キミの瞳に巣くうお星さま(3/3)

初めてなまえを見たとき、そういう人形がいるのかと思った。
自分と大して歳が変わらないのに、ただ大人しそうに笑っている、そういう女の子の人形。
兄さんはそんななまえに楽しげに話し掛けていた。最初は嫌だった。俺の大好きな兄さんがあんなに話し掛けているのに、ただ静かに笑っているだけの女の子が。兄さんを盗られたみたいで、すごく嫌だった。
でも、だんだんとなまえの言葉数が多くなって、いつだったか、俺と兄さんの掛け合いになまえがクスクスと笑ったとき、ただ兄さんが気にかけているだけの女の子が、俺の中ではっきりと『なまえ』という女の子に変わった。
びっくりした。人形みたいな子だと思っていた女の子は、笑うとこんなにも可愛らしい顔で、声で、笑うんだと。
それから俺はなまえに夢中になった。もっと笑った顔が見たくて、色んな顔が見たくて。人形だと思っていた子はただ感情を抑えていて、本当はもっと表情豊かな女の子なんだとわかったらその感情をもっともっと引き出したくなったのだ。
気が付いたら兄さん以上になまえのことを気にかけている俺がいて、もっとなまえが笑ってくれればいいのにとか、俺に話し掛けてくればいいのにとか、楽しそうな顔を向けてくれればいいのにとか、そんな事ばかり考えていた。
なまえの手を引いて色んなところへ連れていくうちに、なまえは舞台が好きなのに気付いた。
きっと舞台上の役者が色んな役を演じているのが、感情を抑えがちだったなまえにとって新鮮で、強く心惹かれるものだったのだろう。舞台を観終わったあと、少し興奮気味のなまえが「あのシーンが素敵だった」「あそこのダンスが素敵だった」と話すから、頬を紅潮させるなまえが可愛くて、自分が覚えている限りのステップをその場で踏むと、なまえは瞳をきらきらさせて手を叩いて喜んだ。なまえが大きな瞳にきらきらと星を浮かべて「すごい! すごい!」とはしゃいだ姿に、なんて可愛いんだ! と俺は子供ながらに感動してしまった。それと同時に、ほんの一瞬でもなまえの心を独り占めにする快感を覚えてしまった。
それから俺は舞台を観れば、なまえの前でその舞台のステップを披露した。なまえがとても喜んでくれるから、俺はもっとずっとなまえに俺のことを見て欲しくてとても必死だった。
そしてその内、観劇した舞台のシーンを真似てなまえを喜ばすことに物足りなさを感じた。だってなまえはそれを見て、俺ではなくその舞台を思い浮かべているのだから。それは俺であって俺ではない。
だから俺は兄さんと同じ道を選んだ。
今度は俺自身の力で、なまえの瞳をきらきらさせるのだと。
俺自身だけで、なまえの視線を、心を、独り占めにするのだと。


(今日のなまえのランチはサンドイッチか。……ふふ、たまごサンドって、なまえがいうとなんだかすごく可愛い単語に聞こえる)


稽古合間の休憩時間。俺は今日もなまえの写真をこっそり追っていた。
今日のなまえのお昼ご飯はたまごサンドイッチのようだ。サンドイッチを頬張るなまえって想像するだけでも可愛いな、と頬を緩ませていると、同じく休憩中のナギが俺の前に現れ、両手を後ろに組んで首を傾げた。


「なぁにニコニコしてるの?」

「あ、ううん。ちょっとね」


まさか彼女の写真をこっそり見てますなんて言えず、慌てて携帯をしまうと、ナギは「ふーん」とつまらなさそうに踵を返した。下手に突っ込まれなくて良かった、と内心ほっとしていると、それを見計らったかのようにナギがまたくるりとこちらに向き直った。
どうしたの? と俺が目で言うと、ナギはすうと真顔になり、低く呟いた。


「瑛二、なまえ監視するのそろそろ止めたら? 彼氏だからグレーとか思ってるかもだけど、完璧に黒だからね」


レッスン室に俺の短い声が妙に響いた。


「えっ」



キミの瞳に巣くうお星さま

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