モーニングショット
「へぇ。今日はおもしろい髪型してんだな。」
動くたびに揺れる艶やかな髪につい触りたくなる。いつもと違って彼女の髪が二つに結い上げられている。
「どう?似合う?」
「いいんじゃないか。」
「本当?」
良かった、と嬉しそうに笑うナマエはとても可愛かった。肩にかかるツインテールを指先でくるくると回してジュディスにも「似合う?」と聞いている。いつも団子だったナマエにそれ以外の髪型は新鮮でジュディスも「可愛いわよ」と言ってナマエはまたとても嬉しそうにしていた。
「あ、おはようございます。神田。」
階段付近でエステルの声がして、そのエステルの声にナマエが反応した。そしてジュディスに向けていた体をくるりと階段へ向け、そのツインテールを揺らしながら歩き、神田の前ににっこり笑って立った。先程の幸せそうな顔ではない、どこか背中に黒い何かを背負っているような。
「お……」
「おはよう、神田。」
ぴし、と一瞬だけ、ほんの一瞬だけ神田が固まったのがユーリにはわかった。ナマエの笑みに驚いた、というよりナマエの格好…髪型を目に入れた時だった。
「お前な…。」
「神田が謝るまで私これだから。」
黒目がちの目をキッとつり上げナマエは踵を返した。揺れる二つの髪束を見ながら神田は小さく溜め息を吐き、そんな二人にエステルは首を傾げていた。
「ナマエ。」
「なに?ユーリ。」
「その髪型、なんかあるのか?」
「あぁ、これ?」
昨日の喧嘩はまだ続いていたのか、と小さく思いながらユーリはナマエに聞いた。ユーリに話し掛けられるとナマエのつり上がった瞳はすぐに元に戻り、先程の幸せそうな瞳に変わる。
「リナリーがいつもしてる髪型なの。」
「リナリー……、あぁ、双子の。」
「うんっ」
彼女から双子の話はよく聞いた。一卵性双生児なのに双子のリナリーはめちゃめちゃ可愛いらしい。まぁ、それはナマエを見ればよくわかるのだが、ナマエ曰く同じ顔でもリナリーの方が万倍可愛いらしい。
ナマエのこのシスコンっぷりに、それとナマエから聞くリナリーの話、そしてツインテールに固まる神田にユーリは何となく頷いた。(あぁ、そういう事か。)そしてナマエの肩越しから見える神田を見ながらその髪房を指に絡めた。
「団子もいいけど、こっちもいいな。」
そう言えばナマエが花を咲かせたように笑って、その愛らしい笑顔につられてユーリも笑ったその時、
「触るな。」
ナマエの髪に触れていた手が弾かれナマエの肩が抱かれる。神田に。
「…………………。」
「…………………。」
ユーリと神田の間にばちばちと火花散り、その場にいるジュディスがあらあらと微笑み、エステルがや、やめてくださいと言いかけ、リタが放って置きなさいよとエステルを止める。
「触るな……なんて…」
更にその時、二人の間に挟まれたナマエが震えだし、
「こっちの台詞だパッツン!私はまだ怒ってるんだからーーーっ!!!!」
「あ、やっとみんな起きたんだね…へぶぁあうわぁぁあああっ!!」
「カロルーーーッ!!」
エステルの悲鳴が宿に響き渡る。ナマエの蹴りに神田が宿屋の扉と(ちょうど外から戻ってきたカロルと)吹き飛んだ。突然のことに流石のユーリも頭が追い付かなく、取り合えず吹き飛んだ神田を探せば、宿の外には銀色の刀身を光らした鬼がいた。
「…上等じゃねぇか。表出ろドチビ。」
「え、ちょ、ふ、二人ともケンカは良くないよっ!?」
「カロル退いてくれる?私このパッツンをとうとう葬る時が来たわ…。」
「ど…退いてってナマエが…」
「どけガキ。まとめて刻むぞ。」
「だ、だから僕っ」
「カロルッ!逃げろっ!!」
焦ったユーリの叫びが開戦の合図だった。
「なにこれ。」
「あら、おはよう。おじさま。」
「え、なにこの地獄絵図!」
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