紅、ぢりぢりと
冷たい夜風を感じながらユーリは紅々と燃える火を見つめていた。いや、その向こう側を見つめていた。焚き火を囲うように皆が寝ている中、その向こう側には黒い影が二つ寄り添うようにあった。違う、影ではない。彼女達の『団服』だ。影のように見えたのはその二人が同じ黒髪で同じ黒い服を着ていたからだ。(そしてぴったりとくっ付いていたからだ。)自分よりも黒々しい髪に、強く結び上げられた目と唇。剣士として申し分のない肩には彼の愛刀が立て掛けるようにあり、反対の肩には小さな頭が乗っていた。団子を頭に乗っけた、小さな頭だ。焚き火の紅が映る程の白い肌、さくらんぼのような小さい唇。影がかかる程長い睫毛はしっかりと閉じられ、細い肩はゆっくりと上下していた。
「…何だ。」
「別に。」
その頭を起こさないように低く、小さく剣士が口を開いた。ユーリはナマエから目をそらした。
「じろじろ見んな。」
「寝顔ぐらいいいだろ。」
減るもんじゃねぇし、と呟けば小さく減ると返された。どうやら彼女の寝顔は減るらしい。それならばもっと見ておきたい。だって、あんな安心しきった顔、初めて見たのだ。
「俺の前じゃちっとも寝てくれなかったクセにな。」
「あ?」
「何でもねぇよ。」
この男は今までどんなナマエを見てきたのだろうか。
羨ましい、とはこの事。
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