黒、参戦


骨を断ち切った固くて鈍い手応えを感じながらユーリは剣を振り切った。剣に付いた血を振り払う間もなく次の魔物がユーリを襲う。

早く、

早く、


早く街に行きたいというのに、こういう時に限って魔物によく遭遇する!ユーリは次々と襲ってくる魔物に舌を打ちながら、後ろに退がってエステルに体を支えられてなんとか立っているナマエを見た。ナマエの顔色は良くない。息も絶え絶えでエステルの治癒術も効かない。早く街に行って医者に診せたいのに!


「チッ、次から次へと…!」

「ユーリ!」


斬っても斬っても牙を向けてくる魔物達にユーリが奥歯を噛み締めた時、リタがユーリの名を呼んで袖のリボンを翻した。リタの足元には複雑な魔法陣が描かれ、小さな口からは上級魔術の詠唱が唄うように紡がれていた。ユーリは頷き、剣を構え直してリタを背に魔物へと突っ切る。リタが詠唱し終えるまでここはなんとか抑えねば、そう目の前の魔物を斬った時、


「ユーリッ…!!」


ナマエと退がっているエステルの悲鳴に近い声が聞こえて、横から襲い掛かってくる魔物に気が付いた。しかし気が付いた時にはもう遅く、右腕を思いきり噛み付かれ、ぶつんと肌に牙が立てられる感触に眉を寄せながらもユーリは左手に握った剣を横に振り切った。どさり、と胴と頭を二つに切り落とせば、脈を打つように右腕から血が流れる。


「ユーリ!…聖なる活力、此処へ…!」

「エステルッ!ナマエから離れるなっ!」


エステルの詠唱にユーリは心臓が変に脈打ったのを感じた。今エステルがナマエから離れたら…!

支えを無くしてぐったりとその場に座り込むナマエにユーリは手を伸ばした。まずい。ナマエの背後から魔物が襲い掛かろうとしている。


「ナマエ…!!」


涎で嫌らしく光る魔物の牙が細い首筋に、今、




「界蟲、一幻!」




刹那、

銀色に光り、矢のように魔物を貫いた何かを見た。


竜…?いや、蟲…?


貫いた光は魔物を倒すと何もなかったのように消え、その代わりに黒い影が倒れたナマエの傍に音もなく落ちた。影はどこかで見たようなデザインのコートを身に纏い、すらりとしたシルエットを魅せた。足首まであるコートに銀色の十字架を胸元に光らせている。広い肩幅に筋の通った輪郭に鼻筋、切り揃えられた前髪は深く黒く、とても長い。後ろで高く結ってある髪紐が静かに揺れた。そして、前髪から覗く、髪と同色の瞳はまるで魔物に鋭かった。


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