紅、ちりちりと
冷たい夜風を感じながらナマエは紅々と燃える火を見つめていた。長く見つめていると目の奥がじんと熱くなる焚き火の回りには各々敷布を敷いて寝ている皆がいた。しかし『皆』と言ってもメンバーがまったく違う。
薄桃色の髪をした、まるで存在が花のようなエステルと、素直じゃないが根は誰よりも優しいリタは一枚の敷布の上、身を寄せ合うように寝ていた。そのすぐ隣にはクリティア族という耳がエルフのように尖ったジュディスが方膝を立て、ハルバードを抱えるようにして目を閉じている。またその隣には元気一杯のカロル。その元気一杯の言葉は寝相にも表れていて、大の字で寝転がり口を大きく開けて寝ていた。そしてその寝相から逃げるようにして背を向けて寝ているのがレイヴン。格好といい発言といいどうも胡散臭い人物なのだが、その飄々とした性格はどこかラビを思い出させナマエは彼と一緒にいるのは嫌いじゃなかった。そして最後、自分、エステル、リタとぐるり回って自分の隣にいるのがユーリ。
「まだ起きてんのか?」
「あ…ごめん、起こしちゃった?」
「いや、起きてた。つうか起こしたも何もお前最初から静かにしてただろ。」
「うん。」
ユーリは夜の闇に溶けてしまいそうな、いや、夜の闇のような男だった。闇色の長髪に同色の瞳。夜の包み込むような優しさと暗さを持つ、このメンバーのリーダーのような存在だ。ナマエは起き上がったユーリに座るスペースを少し譲って膝を抱えた。
「眠れないのか?」
「んー…」
「それとも寝ないのか?」
「……」
声の調子は変えずに瞳だけ細めたユーリの言葉にナマエは困ったように笑った。
「ごめんね。別に皆の寝首を掻こうってわけじゃなくて……」
「んな事はわかってるよ。」
ナマエと出会ってまだそんなに長くはないが、彼女がそんな人物ではないのはわかる。エステルが治癒術を使えるのをわかってて自分の怪我を隠す女だ。「自分は後でいいから」と自分より他人を大切にする。他人を大事にしすぎて自分がボロボロになるタイプだ、きっと。
「俺らはまだ信用ないか?」
「…そういうことじゃないよ。」
すごく親しいという間柄ではない。しかし戦闘中は安心して背中を任せられるとは思っている。なのに安心して寝られる間柄ではない。それは一体どういう事なのだ。自分の体を抱き締めるように座るナマエの横顔は焚き火に当てられ紅々と色付いていた。長い睫毛が上下して見えた瞳は炎と一緒に揺れている。ユーリはただ、その寂しげな横顔を見つめることしかできなかった。
胸に妙な燻りを感じながら。
その瞳には何が映っているのだろうか。
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